若大将シリーズは言うまでもなく60年代を代表する東宝娯楽映画であるが、以下を切り口に前期と後期に別けることが出来る。
即ち、
時代 | 若大将のステイタス | 相手役 | 音楽 |
前期: 61~68年 | 学生(主に京南大学) | 澄子:星由里子 | ※エレキ・GS |
後期: 69~70年 | サラリーマン | 節子:酒井和歌子 | 歌謡ポップス/ フォーク |
(※66年、エレキは海の若大将の「恋は紅いバラ」から)
後期は加山の年齢から学生役が困難になった為、会社員役になった訳だが、学生スポーツ競技会での優勝シーンがなくなったこと、加山の人気も下り坂になったことより、「おまけ」的な側面は拭うことが出来ない。また、音楽的にも世の中はエレキ~GSの衰退・代わってフォークや歌謡ポップスの台頭と言う暗黒の時代に突入し、加山の曲も全く魅力のないものとなっている。それをかろうじて救っているのは、はじける様な笑顔と、あっけらかんとした性格の酒井扮する節子の登場であろうか。
さて、そこで、昭和45年のブラボー若大将である。
大手商社である三ツ矢物産社員である田沼雄一(加山)は、独自の技術を持った住宅建材の中小メーカー(社長は熊倉一雄:ご存じひょっこりひょうたん島のトラヒゲの声を担当)と協同でプロジェクトを企画するのだが、同社のアイデアだけをパクって大手建材メーカーとの提携話を進める三ツ矢物産のやり方に頭にきて辞表を出してしまう。また、恋人(高橋紀子:ハーフっぽいルックスでかなり可愛い)が他の資産家の男性との結婚を決め、傷心の中、単身グアムへ・・・。そこで会社の同僚と旅行に来ていた節子(酒井)と知り合い恋に落ちるが、彼女の勤務先は青大将(田中邦衛)が専務を務める会社であった。
帰国後、勤め先の無い加山は、実家のすき焼き屋の田能久の厄介になるのだが、そこでは、大学時代のテニス部マネージャーであった江口(江原達治)が加山の妹照子と結婚して、若主人となってオーナーである加山の父久太郎(有島一郎)と一緒に働いている。何とか自分らしさを出したい江口は、インスタント焼肉なる怪しげな企画に手を出して、損を出してしまうが、入り婿の悲しさでそれを有島に言い出せず、ギャンブルで穴埋めしようとして益々深みにはまってしまう。
加山は、そんな江口の相談にのり、有島に正直に話して謝罪する様に説得する。また、偶然再会した熊倉の会社に就職が決まり、また、節子に一目ぼれした青大将の執拗な嫌がらせを切り抜け、節子との恋も順調に・・・・。ところが、熊倉の会社が資金難に陥り、手形決済が危うくなる。加山は、元恋人(高橋)の嫁ぎ先が銀行家であることを思い出し、彼女に資金援助を申し入れ、会社は危機を回避。高橋への御礼に誘ったレストランで、偶然にも上司である青大将のお供で来店した節子と遭遇。頭にきた節子は、青大将より申し入れを受けていたグアムへの同行出張を受け容れてしまう。とめまぐるしい展開になるが、節子はアバウトな性格であまり気にしないのか、加山との誤解があっさりと溶けて元のさやに・・・・。
一方、三ツ矢物産は、熊倉の会社と対等で合弁会社を設立することで社内決裁が取れ、加山が新会社の社長に就任することが決まりハッピーエンド。
サラリーマンコメディだけに抑えどころは沢山ある。
先ずは、江口。何かにつけ保守的な久太郎の下で、自分らしさを出したい気持ちは判るが、何事も正直に報告するべき。結局、赤字を出し、その穴埋めに回収した売掛金を横領してしまうが、失業していた加山が店の手伝いとして得意先廻りをしていたため、既に入金済の売掛金が帳簿から消されていないことが発覚してしまう。やはり、相手先との売掛金の残高確認が重要であると言うことか。また、江口の様な気弱なタイプは一度失敗すると言い出せず、自分で何とか解決しようと焦り、傷口を広げて最後は収拾がつかなくなる事例が実際のビジネスにおいても多いのではないかと思われる。やはり、何事も日頃から「ほう・れん・そう」が一番である。
それから、三ツ矢物産とトラヒゲの会社の合弁会社設立案件。対等の精神は結構だが、出資比率50%:50%は出来れば避けて頂きたい。対等と言うのは、問題発生の際の株主責任の所在が曖昧になるし意思決定に際しても何かと不便である。トラヒゲ会社出身の加山が社長となることでもあり、三ツ矢物産にとっては持分法適用会社にしかならないが、自社のボンクラ課長(藤岡琢也)を社長にゴリ押ししなかった三ツ矢の部長(松村達雄)判断は正解と言えよう。事業の成否は社長にかかっていることを理解しての判断は、さすがである。
もう一つ、トラヒゲ社長さん! 三ツ矢物産から提示された合弁契約書の中味も読まずにOKしてはいけません。相手が大手であっても(大手であればあるほど)契約書はちゃんと検討したうえで返事をしましょう。
その他の見どころとして、グアムで青大将に迫られて逃げる節子の超ミニスカートからチラリと覗く白い下着に注目!また、レストランで元恋人と逢っている加山を発見した時の彼女のふくれっ面は最高に可愛い。
尚、加山の大学のテニス部の後輩として、後に若大将対青大将で2代目若大将となる大矢茂(ジェームズボンドで言えば「女王陛下の007」のジョージ・レーゼンビー的存在で、この1作のみで目立たない)が出演している。彼は「真冬の帰り道」でデビューしたGS時代のランチャーズのサイドギター担当で、この時期もまだバンドは解散していなかったと筈である。スクリーンではテニス部の合宿所で寮生や加山とギター(勿論、生ギター)を弾きながら歌うシーンがあるが、寮歌の様な歌で残念ながらGS色は全く無い。また、リードギター担当の喜多嶋修が内藤洋子と結婚したのは、ほぼ同じ頃である。
(ゴーゴー若大将、リオの若大将ではGSランチャーズとしての演奏を楽しむことが出来る)
(2012年6月)
<画像は、東宝映画より引用>
コメントを残す