この診断士による映画評論もずいぶんご無沙汰です。ここ数か月、意外に忙しくて、懐かしの日本映画を見る時間がありませんでした。今回は、角川映画の名(迷)作「野生の証明」(1978年)にチャレンジです。

ご存じの通り、角川映画としては犬神家の一族、人間の証明に続く第三弾で、薬師丸ひろ子のデビュー作として大ヒットしました。当時、私も映画館に足を運びました。・・・が、ストーリーが複雑と言うか、良く言えば、矢継ぎ早の展開でごちゃごちゃになって訳が分からなかった記憶があります。

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そこで、あらすじです。

自衛隊の特殊部隊のエリート工作員である味沢(我らが健さんです)が、訓練中の山奥で迷い込んだ村落での大量殺戮事件に遭遇し、その殺人者を殺害します。除隊した味沢は、その殺戮の唯一の生存者で殺人者の娘である薬師丸を養女として、ある地方都市で保険外交員として暮らしています。この地方都市は三国連太郎率いる建設会社に牛耳られていて、そこのバカ息子が館ひろしと言う設定です。その町の地方新聞の記者である中野良子は、この建設会社の不正を暴こうとして、舘ひろし率いる暴走族に襲われたところを健さんに助けられて親しくなるのですが、三国の手下に殺されてしまいます(彼女は一人二役で、山奥にハイキングに来ていて健さんと遭遇した直後に、村落で巻き添えに合って殺されます)。一方、地元の刑事(夏八木勲)は、健さんを村落の殺人者と睨んで追跡しています。

更に話をややこしくするのが、薬師丸の記憶喪失と超能力で、彼女は健さんが自分の父親を殺害したことについて記憶を取り戻します。

いずれにしても、この町から脱出しようとした健さんと薬師丸に三国の手下が襲い掛かり、そこで、健さんは特殊部隊時代の「野生」の本性を発揮して、館を初めとする手下を皆殺しに・・・。と言うところで、薬師丸の証言によって、健さんを村落の大量殺人者と判断した夏八木が健さんを逮捕。ところが、除隊した特殊工作員を始末しようとする、松方弘樹率いる自衛隊特殊部隊に襲われ、3人で逃亡。夏八木は、トラックで戦車に体当たり。薬師丸が健さんに対して「お父さん!」と叫んだところをヘリコプターから松方に撃たれる。松方のヘリコプターを撃墜した健さんは、薬師丸を背負って戦車に突っ込んでいく。

と言ったところでしょうか。

中野の相方の新聞記者に田村高廣、防衛庁長官が芦田伸介、チンピラが梅宮辰夫、薬師丸を診断する大学教授が山本圭、自衛隊の偉い人が丹波哲郎とチョイ役にも大物俳優を起用していて、さすがお金持ちの角川の面目躍如たるところがあるのですが、であれば、健さんの相手の女優さんが中野良子と野性2.jpg言うのは、如何に当時彼女が売出し中だったとしても格として如何なものか?また、健さんを逮捕する刑事の夏八木も、人間の証明では、岩城滉一(岡田茉莉子のバカ息子)に轢き殺される女性の浮気相手だったことを思えば、大出世なのですが、健さんの相手としては迫力不足と言わざるを得ません。まぁ、当時14歳の薬師丸のスクリーンへの登場が最大の見所でしょうか・・・。

ところで、この映画のどこが経営診断と関係があるかって???。

実は、私の中ではしっかりあるんです。

最近の企業の不祥事の中で、このコラムでも取り上げた胃カメラ屋さんの不祥事と善良なサラリーマンの老後の年金を一瞬にしてフイにしてしまった投資顧問会社の事件には共通項が有るようです。両事件とも、ある大手証券会社のOB達が絡んでいると言うことです。専門的なことは判りませんが、その証券会社で叩き込まれた業務上の高度な技術と実行力、が、今回の問題に利用されたのではないかと思われます。株式市場にせよ、企業年金にせよ、我々の社会の根幹であり、この社会の仕組みを機能させるため貢献することが大手民間企業にも求められている筈です。

野生の証明の冒頭では、健さん率いる特殊部隊は業務上の特殊な技能を使ってテロリストを粉砕しますが、この様な技術が高度であればあるほど、目的外に使用された時のリスクが大きくなる。その為に、松方弘樹率いる自衛隊特殊部隊は、除隊後の健さんを徹底的にマークし、彼の暴走(野生の本領が出た)を確認した時点で、大部隊を使って抹殺します。(健さんと薬師丸に対して何もそこまで大部隊を投入せずとも良いものを!!! )それが、プロの技術を持った組織の社会に対する責任であることを理解していたものと思われます。

それに比べると、あの会社はどうなんでしょうか?下手に使われると我々の社会を破滅させかねない高度な技術と実行力を叩き込んだプロを野に放ったままで野生化するのを、放置して良いとは思えないのですが ・・・。少なくとも、それだけの「武器」を与える際に、同時に社会道徳を維持する一市民としての「倫理観」もしっかり教えて頂きたいものだと思います。

と書いている矢先に、今度は同社の社員が機密情報を漏えいしたことによりインサイダー事件の疑惑が起ったとのニュースです。ホントにどうなっているんでしょうね?

 

尚、この映画の主題歌は町田義人が歌う「戦士の休息」。元、ズーニーブーのボーカリストで、白いサンゴ礁以来のヒット曲となりました。人間の証明のジョー山中(元、フォーナインエース~フラワートラべリンバンド)と言い、角川さんはGSファンだったのでしょうか? 是非、今後の映画の主題歌に元GSのスター達を起用して貰いたいものです。(2012年6月)

<写真は東映映画より引用>