電話 “文殊”には、学費や授業料の返還に関する相談がよく寄せられます。

大学はもちろん、大学院、私立中学、服飾専門学校、看護専門学校などなど。学校の種類や一人ひとりの事情は様々ですが、皆さんに共通するのは、学費や授業料を納めてしまった後、どうしても入学辞退や退学しなければならなくなったので、払い込んだ学費を返還してほしいということ。

でも、言ってみれば、自分の都合で辞めることになったのだから、学校側に授業料を返してくれとはちょっと言いにくい。そんな、ちょっと後ろめたい気持ちをお持ちの方が多いようです。
モンスターペアレンツとかクレーマーのような図々しい神経の持ち主ならいざ知らず、普通の日本人であればちょっとためらってしまう気持ちも分かります。武士道というのもちょっと大げさですが、倫理や信義を重んじ、約束を破ることに大きな抵抗を感じるのが日本人のメンタリティなのでしょう。

るんるん でも、ちょっと考えてみて下さい。

2年の契約でアパートを借りたとして、1年で出ることになったとしたら、2年契約だから残る1年分の家賃も支払わなければいけないでしょうか?
1カ月前に知らせるか1カ月分程度の違約金を支払って解約できるのが普通ですし、「借地借家法」という法律も、借り手に有利な形で途中解約を認めています。

確かに、家賃の場合は、このように借りる方の保護が規定されているものの、その他の場合はどうでしょう?
例えば、もしも週1でスーパーから食材を届けてもらう注文をして、半年分の料金を前払いしたとしましょう。1カ月後に転勤が決まって遠くに引っ越すからと、以降の配達をキャンセルしたとしたら、前払い金は一切返ってこないでしょうか。普通は、多少のペナルティは覚悟するとしても、キャンセル以降の分については常識的な範囲で返金してもらうことになるでしょう。
でも、もしもその時、半年の契約をしているのだから、そちらの都合で解約してもお金は返せませんと言われたら・・・。残念ながら、食材の配達に「借地借家法」を使う訳にはいきません。しょうがない。約束は約束だから、結局諦めるしかないのでしょうか?

るんるん ここで登場するのが、「消費者契約法」という法律です。
消費者契約法は、企業に比べて圧倒的に非力な個人消費者をバックアップしてくれる私たちのつよーい味方です。例えば、この法律の第1条「目的」には「消費者の利益を不当に害することとなる契約条項は無効とする」と規定され、第9条では、消費者側が解約したとしても、実際の損害額を超える金額を没収することは無効だと明確に書かれています。
「無効」ってことは、いくら契約で決めたことであっても、その部分はチャラになるということ。つまり、既に払い込んだ分でも返してもらえるということです。
約束を重んじる日本人から見れば、ちょっとビミョーな気がしないでもないですが、この法律の基本には、かよわい消費者はこれぐらい保護してあげなきゃいけない、という考えがあるのです。

ここで、「学校と学生の関係って、企業と消費者の関係と同じなの?」と疑問に思われる人がいらっしゃるかも知れません。
でも、安心して下さい。学費返還訴訟で、裁判所は、例外なく学校と学生の在学契約には消費者契約法の適用があるとしているのです。ですから、学校の入学規定や学則で、例えば「いったん納付した学費は、いかなる理由があっても返還しない」という規定があったとしても、学校側が受けた損害が支払った学費分よりも小さい場合には、その部分が「無効」となって、返還してもらえる可能性が出てくるという訳。ただし、入学辞退や退学を届け出るのがあまり遅くなってしまった場合はそうはいきませんが。

かわいい よおっし、じゃあ裁判だ! って、ちょっと待って下さい。裁判となると、高い費用と貴重な時間を費やさなければならない上に、精神的にも大きな負担がかかることを忘れてはなりません。 私たちは、ついつい法律=裁判と考えてしまいがちですが、それは大きな誤解です。裁判とは違う土俵で、法律を活用する方法はいくらでもあるんです。

そう。そこがまさに、この「街角の法律活用術」のページのメインテーマ。法律と聞くと何だか小難しげですが、「消費者契約法」で見てきたように、味方につけさえすれば、弱者にとって法律ほど頼りになる武器はありません。
もし皆さんの周り、学費返還で困っている人がいたら、ぜひ「消費者契約法」を味方につけるようアドバイスしてあげて下さい。  〆