かわいい2012年も押し詰まった12月21日、名古屋地裁で授業料返還に関する判決が出ました。学校法人「モード学園」が運営する専門学校が、入学辞退者に「学費は返さない」という条項を設けているのは不当だとして、この条項を使わないよう求めた訴訟の第一審判決です。

訴えていたのは、消費者契約法の規定で、消費者個人に代わって不当な契約の差し止め訴訟を起こすことができる「適格消費者団体」。

専門学校側は、「入学辞退によって学校に損害が生じるので、理由のいかんにかかわらず返金できない」と主張していました。しかし、判決は、2次募集や欠員募集で「代わりの入学者を確保できるため損害は生じない」と指摘し、この規約には違法性があると判断しました。

確かに、事業者としての学校法人からすれば、一方的な都合で入学しない学生の授業料を返金させられたのではたまったものではないでしょう。しかし、いったん入学を決めて大金を払い込んだ学生が 入学を辞退するのはよくよくの理由があってのこと。入学金はまだしも、授業を受けないのだから、その対価である授業料ぐらいはせめて返して欲しいというのが人情というものです。

最高裁は、消費者契約法が施行された2001年4月以降の大学入試について「新年度が始まる前に入学辞退を表明した場合、大学側は授業料などを返還する義務を負う」と判断していました。今回の地方裁判所の判断は、「消費者契約法」が大学生だけではなく専門学校の学生にも適用され、立場の弱い消費者=学生を守ってくれるとしたものです。

授業料の返還のために裁判に訴えるのは容易なことではありませんが、専門学校に対して返金を交渉する際、今回の判決は大きな味方になってくれることでしょう。また、もしどうしても学校側が応じてくれなければ、「適格消費者団体」の助けを求めることが大変有用であることを示してくれました。

授業料の返還問題から、さらに対象を広げてみましょう。今回の判決を見れば分かるように、裁判官個人の思想信条や弁護士の戦略・力量によって多少のブレはあるものの、法律は原則的には弱い者に味方するように出来ています。
ところが、実際のところ、法律を武器に裁判に訴えるのは、ただでさえカネとチカラのある政府や大企業など権力者ばかり。でも、専門知識や財力に劣る弱い立場の私たちが、法律を上手に利用しない手はありません。民法や消費者契約法を上手に活用して、消費者を守るために作られた消費者センター「適格消費者団体」を味方につければ、普通なら到底太刀打ちできない巨大企業に対して正当な主張をぶつけ、対等に戦うことも決して難しいことではないのです。

これまでは、例えばマニュアル対応しかできない苦情電話担当の女性に思わず声を荒げて後味の悪い思いをしたり、どうせ無理だとあきらめて泣き寝入りしたり、というのが関の山でした。

でも、ちっぽけな私たちの電話やメールなんか本気で対応しない巨大な相手であっても、法律に基いて正式に申入れればダンマリを決め込むわけにはいきません。企業は、所管する省庁や公正取引委員会、消費者庁などの「お上」のお灸にはからっきし弱いのです。なぜなら、「お上」から業務改善・停止命令や指導を受けたら、どんな大企業でも破たんしかねず、そのダメージは図り知れません。そして一方、国民の正当な主張に対して、「お上」は動かざるを得ません。何たって、公務員は国民全員にサービスをするのが義務(憲法15条)なのですから。

無論、「お上」は面倒なことが大嫌いですから。実際にはそう簡単に動いてはくれないでしょう。でも、「お上」は無数の法律によって縛られています法律に基いた国民の正当な主張を門前払いする訳には行かないのです。そして、企業の側も身に覚えがないわけではないだけに、この件で「お上」が動くかも知れないとなれば対応に走らざるを得ません。

「国民」「政府」「企業」のグーチョキパーを連想させる三角関係。何やら「三すくみ」を思わせます。この基本構造を理解してうまく活用するのが賢い消費者なのです。

世界にはいまだ、独裁システムに抗議する正義が無残に踏みつぶされる国々や、宗教的狂信によって人格も命も踏みにじられる国々が沢山あります。でも、ここ日本は、首相であろうが大企業の社長であろうが大学学長であろうが、罪を犯せば罰せられる法治国家です。社会科で学んだ「法の下の平等(憲法14条)」が、実際に機能する国に生まれたことに感謝しつつ、私たちは、この国の法律を上手に活用していくべきなのだと思います。