ゴールデンウィークですが緊急事態宣言下、外出もままならず暇に任せて新作をお届けします。今回は、池井戸潤の小説を映画化した「七つの会議」(2019年公開)を取り上げます。先ずはあらすじから。

東京建電は日本有数の電機メーカー「ゼノックス」の子会社で、金属器具の製造・販売を主な業務としている。主なメンバーは、社長の宮野(橋爪功)、ゼノックスから出向中の副社長の村西(世良公則)、出世が全ての営業部長の北川(香川照之)、営業一課長の坂戸(片岡愛之助)、営業二課長の原島(及川光博)である。また、営業一課には、北川の同期でぐうたら社員の八角(野村萬斎)が所属している。営業一課は毎期予算を上回る営業成績を挙げているが、営業二課は予算未達で、原島は定例会議で北川よりこっぴどく叱責を受けている。一課の好業績は、坂戸が部材であるネジの発注先を「ねじ六」からコストの安い「トーメイテック」に切り替えたことに起因していた。一課のメンバー全員が予算達成のため残業を厭わず働く中、八角のやる気のない態度に怒った坂戸は、八角に罵詈雑言を浴びせる。これに対し八角は、パワハラであるとし会社上層部に訴える。課内の雰囲気は総じて坂戸に好意的であったが、意外にも坂戸は人事部付に処されて行方不明となり、原島が営業一課長、ネジの仕入れ担当は八角が引き継ぐ。
八角は担当になった早々にネジの仕入先を「トーメイテック」からコストの高い「ねじ六」に再変更する。その際に10万円の交際費を使用していたことから、不信感を持った経理部長の飯山(春風亭昇太)は経営会議で報告するが、逆に部下の新田が東北営業所に飛ばされる。更に、営業一課が販売した機具の品質クレームを調査していたカスタマー室長の佐野(岡田浩暉)も福岡営業所に飛ばされる。
原島の部下である浜本(朝倉あき)は、残業の多い社員の軽食として社内で無人のドーナツ販売を自ら提案し行っていたが、販売と料金箱の現金が合わず、ドーナツ泥棒の存在が問題となっていた。浜本は原島と共にドーナツ泥棒を突き止めようと見張りを行った結果、新田が犯人であることが判明した。尚、浜本は以前新田と不倫関係にあった。
原島は八角が仕入先を切り替えた理由が「ねじ六」からの賄賂ではないかと疑い、八角を素行調査する中で、東京建電の製造した椅子を調べているのを見かける。更に、製品クレーム履歴において、この椅子に対するクレームが多いことを発見する。原島は以前の会議において自身が腰かけようとした椅子が壊れて尻もちをついたことがあり、周囲の失笑を買ったが、北川と八角だけが鬼の様な形相をしていたことを思い出し、この椅子の構造的な欠陥を疑う。この欠陥の原因がネジではないかと想定した原島は浜本を連れて資材倉庫に出向き、椅子に使用されている「トーメイテック」のネジのサンプルを持ち出し、検査部に強度試験を依頼する。結果、このネジは仕様で決められた強度の半分の強度しかないことが判明。更に、東京建電が製造している航空機や高速鉄道用の座席用ネジも強度不足にも拘らず、検査データが改ざんされて座席に使用されていたことが判り愕然とする。
宮野・北川・八角の3人は既にこの問題を認知していたが、調査の結果、リコール費用が2,000億であることが判明する。八角は当然リコールを公表すると思っていたが、宮野は「今まで問題は起きていない」ことを理由にこの事実の隠蔽と問題製品のヤミ改修を命じ、北川はこれに従う。八角は、宮野の決定に失望して村西に対しこの事実に関する告白文を送り、村西は出向元であるゼノックスに報告する。実は、20年前に現在ゼノックスの常務に昇進している梨田(鹿賀丈史)が東京建電の営業部長として出向していた際にも、同社製品であるユニットバスが不具合を起こしおり、その使用者が一人死亡していたが、梨田は部下で当時ライバル関係にあった北川と八角にその事実を隠蔽して販売を継続する様に指示していた。北川はこれを承諾し、その後、営業部長に出世したのだが、八角はこれを拒絶したため万年係長に留まっているのであった。
事実を知ったゼノックスでは、社長の徳山(北大路欣也)を議長とする御前会議を開催し、梨田を含む同社役員と宮野・村西・北川の出席のもと事実関係の確認を行った。宮野は、強度不足の「トーメイテック」のネジの採用と検査データの改ざんは営業一課長の坂戸の独断でやったことで自身は被害者であると主張。そこで、村西は別の部屋で待機していた八角と坂戸を入室させる。八角は、宮野が「トーメイテック」の江木社長(立川談春)に強度不足のネジを安価で提供する様に強要し、坂戸に「ネジ六」に代わる調達先として「トーメイテック」を採用する様に仕向けたことを証言する。更に、20年前の梨田によるユニットバスの不良隠ぺいの事実を明かし、「この会社の体質は20年間何も変わっていない」と発言する。これに対し徳山は、事実の公表・リコールの実施を明言せず、ただ「調査する」と発言するのみであった。

以降、ゼノックス社員により東京建電の椅子の製造に関する書類・データ・サンプルは全て持ち去られ、製品不良に関する証拠は消滅する。ところが、北川の部長室のソファーの下に強度不足のネジが一本残っていた。これは、北川が強度不足を知った時に、怒ってネジのサンプルが入った箱をぶちまけた際に残っていたものであった。これを証拠に、ゼノックスグループを挙げての隠ぺいが公表され、ニュースで大きな問題となる。梨田は子会社に出向させられ、北川は退社して実家の農業を継ぎ充実した生活をおくる。当局から尋問を受けた八角は、「世間の常識より会社の常識を優先」・「人命より会社の命を優先させる」企業風土を痛烈に批判し、「命よりも大切なものはない」と叫ぶ。

この映画で先ず笑ってしまうのは、主要な出演者が同じ池井戸潤の作品であるTVドラマの半沢直樹とダブっていること。特に、北大路欣也(東京中央銀行の中野渡頭取)、香川照之(半沢の宿敵である大和田常務)、及川光博(半沢の同僚である渡真利)は、役回りもほぼ同一です。金融庁の黒崎も出てますね。
また、同じく池井戸潤の下町ロケットのTVドラマでは立川談春が佃瀬製作所の財務部長の殿村、「ねじ六」の社長の妹役の土田太鳳が佃社長の娘、朝倉あきが佃製作所の技術者として出演しており、正に池井戸作品の俳優さんのオンパレード状態です。

さて、この映画のポイントは勿論企業の不正についてです。先日、数年前に受講したコンプライアンス研修のテキストを見ていたのですが、そこに不祥事を起こした大企業名が記載されていました。東京電力、日産、東芝、電通、三菱電機、神戸製鋼です。そこで気づいたのですが、神戸製鋼を除く5社は最近になって当時の不祥事とは別の事案で世間を騒がせています。具体的には以下の通りです:

 

 

社名 過去の不祥事 最近のお騒がせ事例
東京電力 福島原発事故 柏崎原発への社員の不正入室
日産 排ガスデータ改ざん 経営陣の金融商品取引法違反、

ゴーンさん逮捕・レバノン逃亡

東芝 粉飾決算 旧村上ファンドによる社長解任 ※
電通 長時間労働による社員の自殺 エリート部長の横浜スタジアム暴行事件
三菱電機 長時間労働による社員の自殺 パワハラによる社員の自殺

サイバー攻撃を受け防衛の情報流出疑惑

 

※東芝の社長解任は不正事件とは言えないが、危機管理の甘さを露呈した事例。

尚、ブラック企業大賞において、三菱電機は2018年・2019年2年連続で大賞を受賞、電通は2016年に大賞・2018年に特別賞を受賞している常連企業です。

この様に継続して不祥事が発生する企業は、やはり内部統制・コンプライアンス遵守の体制や社員役員の意識に問題があるものと思われます。まさに東京建電と同じく「この会社の体質は何も変わっていない」状態なのでしょうか。また、上記の企業は総じて業績が低迷していることから、内部統制・コンプライアンス遵守体制は企業の発展にとって必須と言えるでしょう。

映画に出てくる不正について、もう少し見てみたいと思います。

1)データ改竄・不具合の隠ぺい
この映画の重要なポイントは、宮野の指示で採用した強度不足のネジの検査データを改ざんし、更に不具合の発覚後もリコールを公表せずヤミ改修を進めたことです。宮野が不正を決断した原因は、親会社ゼノックスの梨田からのノルマ達成のプレッシャーです。元請けが下請けに、親会社が子会社に、また、上司が部下にノルマを課すのはあり得るとしても、そのノルマが到底達成不可能な過大である場合、課された側を粉飾決算、データ・書類の改ざん、事実の隠ぺいに追い込むか、もしくはうつ病、ひいては自殺にまで追いやる可能性があります。実際にこの様な事例が発生した場合、企業が被るダメージは莫大なものになります。ノルマを課す際は相手側に対して達成する方策を一緒に検討する等により、過度なノルマで相手側を追い込まないことが肝要です。

2)パワハラ
映画では八角が坂戸をパワハラで訴え、坂戸が左遷されます。また、問題にはなっていませんが、梨田は北川に、北川は原島にパワハラを行っており東京建電ではパワハラが常態化していた様です。
パワハラとは、i) 業務上の優位的な地位の利用、ii)業務上適正と認められない指示・命令によって、iii) 相手に精神的苦痛を与え、就業環境を悪化させる行為、と定義されます。具体的な行為として、①身体的侵害(暴力など)、②精神的侵害(暴言など)、③人間関係の切断(仲間外れ)、④過大な要求(ノルマなど)、⑤過少な要求(相手が屈辱を感じる様な簡単な仕事しかさせない)⑥個の侵害(プライベートに立ち入る)が挙げられますが、坂戸は八角に②、④を行っており、パワハラ認定はやむを得ないところです。尤も、八角は意に介さず有給休暇を取得しますが・・・。
長年同じメンバーで構成されている組織の場合、パワハラについて不感症になっていることがあります。この様な組織において通常と考えている行為が、新たに採用した社員・アルバイトにとってはパワハラに感じられる可能性が高くなります。特に、ネットで紹介されたアルバイトの場合は、企業について殆ど知識がないまま業務に従事するため、このリスクが高まります。パワハラで訴えられた場合、仮に法的に企業側に正当性があったとしても、対応・手続きに要する労力・時間や対外的な評判を考えれば相当なロスとなるので、十分な注意が必要です。

3)交際費
映画では、八角が調達先を「ねじ六」に切り替えた際の接待費として10万円を使ったことにより、経理部より不正の疑いを掛けられます。一人当たり5万円ですから、ゴチ官僚の山田真貴子さんには及びませんが、異常な接待との疑惑はやむを得ないと思われます。映画の様な状況でしたら、一人5,000円の居酒屋で十分だったでしょう。社長や幹部社員でも交際費の使用状況については経理担当者が把握しており、仮に私用の出費の可能性があった場合は社員間でその情報が伝わり「社長がやっているなら我々も・・」と言う風潮が広がりかねません。経営者自らが襟を正す姿勢が必要です。
中小企業、特にオーナー社長の場合は「会社はオレの物」的な意識がどこかにあるかと思われます。そこで、社内規程※を作成して「やって良いこと・行けないこと」を明示し、社長自らが率先して規程遵守の姿勢を見せること、また、社員との労働問題に備えて、いつでも相談できる社労士との関係を築いておくことが必要でしょう。

※社内規程(就業規則)においては、懲戒の事由を明確にしておくことも肝要です。これが無ければ、不正を起こした社員を懲戒解雇する根拠がなくなります。また、パートタイム・アルバイトについては会社のやり方・ルールに不慣れな場合が多いので、彼らを対象にした就業規則を別途作成しておくことで事故発生の際のリスクを軽減するのが良いでしょう。

話は映画に戻りますが、東京建電の偽装・改竄問題は親会社ゼノックスによる過度なノルマの強要、出世のためには使用者の命さえ軽視する風潮など、その体質は実際の企業にも当てはまる様に思われます。
浜本のドーナツ泥棒に対する「不正は絶対に許されない。いつか必ず暴かれる」との発言や、八角の「社会の常識よりも会社の常識を、人命よりも会社を優先する」体質に対する批判など、これに該当して不正を繰り返す実在の企業に対する大いなる警告を発していると考えられます。

最後にGSに関してですが、今回は新しい映画なのでGSとの接点はありません。村西副社長役の世良公則がツイストとしてデビューしたのが1977年で、翌年にはサザンオールスターズがデビューしています。この2グループの登場によって、残念なことにそれまでの「ロック=いかがわしい連中」の構図が崩壊してしまいました。CHAR※が「気絶するほど悩ましい」、桑名正博が「セクシャルバイオレットNo.1」と言った歌謡ポップスを発表したのもこの時代です。フラワートラベリンバンドやキャロルの解散も影響していると思います。という訳で、私の音楽趣味がここで終わりを告げました。

※その後、ルイズルイス加部(元ゴールデンカップス)、ジョニー吉長(元チェックメイツ・・神戸のGSでレコードは出していない)とピンククラウドを結成。両名没後もロック界の巨匠として活躍中。

(2021年5月)