新着情報 (page 2 of 3)

file2,愛と憎しみの果て・・・・~その9~

「今年の4月でした。いつものように池袋で会って、いよいよあと2カ月だな、なんて話をしていたら……」
和樹さんが、ちょっと改まった様子で、父さんにちょっと相談したい事があるんだ、と切り出したのだという。
大きく息をついた幸次さんの眉間のしわが深くなった。いよいよ、問題の核心に入るのだろうか。
「結婚式なんだけど、母さんも出席するんだ」
「うん。そりゃあ、まあそうだろうな」
「それでさ……。向こうの実家からすれば、新郎の両親が、離婚してるのに披露宴で席を並べるというのがちょっと引っ掛るらしいんだ」
「そんなこと、今の時代にはよくある話だろ。まさか、披露宴の席で喧嘩する訳でもあるまいし」
「でもさ。締めの挨拶って、大抵は新郎の父がするじゃない」
「ああ。一生に一度の事だもんな。お世話になってる方々に、ちゃんと感謝の気持ちを伝えるもんなんだろ」
そりゃまあ分かるんだけど、と言いながら、和樹さんは言った。
「母さんが、父さんには出席して欲しくないって言うんだ」 クリックして続きを読む

file2,愛と憎しみの果て・・・・~その8~

オ・ン・ナ?
言葉を失った私に、幸次さんは吐き捨てるように言った。
「あいつの後ろに、とびっきりの性悪女がいたんですよ」
あの誠実そうな和樹さんが、父親のまさに血のにじむようなお金をオンナにつぎ込んでた?
ありっえなーい!
心の中で、思わず少女のような黄色い声を上げてしまった。
いやいや、世の中、あり得ないことなんてない。これまで、あの人に限って、っていう人の信じがたい行動を山ほど見てきた私ともあろう者が、何うろたえてんだろ。
「いや、もう回りくどい言い方はやめましょう」
幸次さんが、混乱気味の私を見かねたように言った。 クリックして続きを読む

file2,愛と憎しみの果て・・・・~その7~

こうして、再び生きるよすがを見出した幸次さんの、新たな日々が始まった。
「大学に入って寮住まいになった和樹とは、月に一回会うことにしました。アルバイトするなとは言わないが、学生の本分だけは忘れるな。学費と生活費は父さんが面倒みるから。これが、和樹との約束事です。月一回会う度に、仕送りとして12万を手渡しました。とにかく遮二無二働くことだけが命でしたから、それでもまだ多少の余裕がありました。だから、自分のアパートの家賃とか光熱費なんかを除いた残りは、せっせと貯金しました。いずれ、和樹がまとまったお金を必要とする時が来ると思ってましたから」
「すごい。お父さん、完全復活ですね」
幸次さん、ちょっとだけ誇らしげに見えた。
「でも、あの、お母さんはどうなさってたんでしょう」
由紀ですか?
幸次さんが呟くように言った。 クリックして続きを読む

file2,愛と憎しみの果て・・・・~その6~

「自殺も本気で考えました」
幸次さんが、ふと当時を思い出すように天井を見上げた。
「和樹がいなかったら確実に死んでました。自殺したか、のたれ死にしたかは分かりませんけど。こうやって、まがりなりにも生きおおせてるのは、まあ和樹のおかげかもしれません」
あんな目にあってどん底の境遇に追い込まれて、その上生きる張りすらなくしたら。私は、何だかぞっとした。
「埼玉のぼろアパートのせんべい布団の中で、もうろうとした頭で、こんなことになってとにかく和樹に申し訳ないと、日がなそればかり考えていました。罪ほろぼしをしなきゃいかん、和樹のために何かしてやれることはないもんか、とは思うんですが、どっこい身体の方がどうしても動いてくれません。日がな一日部屋に閉じこもりっきりで、外へ出るのは、何日かに一回、近所のコンビニにおにぎりとかパンとか飲み物を買いに行く時ぐらい。そんな状態が2ヶ月以上続きましたか。破産手続きの時、弁護士さんがぎりぎり確保してくれた当座のお金も、もう底をつきかけていました。でも、まあ金が無くなったら無くなったでしょうがないって。まあそんな精神状態じゃ、身体も動いてくれるはずがないですよね」
うつ症状はずっと続いていたのだろう。生活は不健康そのもの、おまけに何の治療も投薬もしてないんだから、病状が好転するはずもない。
あれは、朝晩かなり冷え込むようになった頃でした・・・・。
幸次さんが、ぽつりと言った。

クリックして続きを読む

file2,愛と憎しみの果て・・・・~その5~

「コンビニの経営が傾いたのは、すべて私の経営判断のミスでした。今思えば、やみくもに拡大路線をひた走ったことが最大の原因なんですが、その根本にあったのが、私の意地というかこだわりというか。ライバル店の登場とか、地の利を度外視した出店とか、なまじっか成功体験があったもんだから、いったん直感でこうと決めたら、冷静に現状分析して戦略を考えたり軌道修正することなんてとても無理でした。俺には経営の才能がある、俺のやることに間違いはない、なんて根拠ない思い込みに衝き動かされてたんでしょうね」
「今だから、こんなことが言えるんだろうか」
私の知る限り、たいていの人は、自分のミスは棚上げにして運の悪さを愚痴ったり繰り言ばっかりだ。こんな風に過去の自分を相対化して冷静な自己分析ができる人はあまりいない。
「もちろん、地元ではそれなりに名の通った老舗を俺の代でつぶしてなるものか、という思いは強かったと思います。でもね。意地とかこだわりの根っ子んところにあったのは、いつも和樹のことでした。3つの店舗を、早朝から夜中まで駆けずり回りながら、軽自動車のハンドルを握ってふっと一息ついた時、気が付くと、和樹はどうしてるだろう、受験は大丈夫だろうか、そんなことばっかり考えていました。でも、仕事に追いまくられて和樹の顔をまともに見ることもできない。中高という一番大事な時に、俺は一体何やってんだって。だからこそ、いつか経営を立て直してやる、昔みたいに、世間様に恥ずかしくないだけの家庭を復活させるって。まあ、コケの一念ってやつですね」

幸次さんは自嘲気味に笑った。
「あの、その頃、奥様、あ、いや由紀さんも由紀さんなりに心を砕いてらしたんですよね」
また逆鱗に触れるのではないかとなかば覚悟しつつ、恐る恐る水を向けてみた。幸次さんが人非人とまでののしる元妻。でも、今、かつて良好だった父子関係がほぐれようのないまでにこじれた原因が、和樹さんの母親である由紀さんにあるのは間違いない。この件を解決するためには、いくら気が重くとも、いずれ由紀さんのことには触れざるをえない。
「彼女、愛善会にひっかかっちゃいましてね。和樹からお聞きですよね」
幸次さんは、もう激昂する様子は見せなかった。感情を押し殺したような口調で言った。
「はあ、一通りは・・・・」
「あれが、とどめの一撃でした。毎日毎日駆けずり回って、何とかかんとか経営を維持してきてたんですけど、由紀は最後の命綱だった金を愛善会につぎ込んでしまったんです。彼女は、コンビニの現場に関わろうとしませんでしたが、私の体は一つしかありませんから、売り上げの入金や支払い処理のために彼女に毎日銀行に行ってもらっていました。事業口座の管理は、ほぼ彼女に任せっきりだったんです」
「でも、幸次さんご自身でもお金の出入りは確認なさってたんでしょう?」
「もちろん。でも、すべてが把握できてたわけじゃありません。とても帳簿を付けるなんて余裕はなくなってましたけど、最低限、支払いの期限だけはカレンダーに書き込んで、絶対に遅れないように気を配ってました。何しろ、その日の売り上げ金を、そのまま翌日の支払いに充てるような文字通りの自転車操業でした。だから、お金の流用なんてハナから考えもしなかった。でも、銀行から半強制的に預金させられていた定期が盲点でした。たかだか200万円でしたけど、こいつに手を付ける時は破産する時だと自分の戒めにしていた定期預金です。もしも、いよいよという時が来たら、これまでお世話になった取引き先に形ばかりでも最後の義理を果たそうと思っていたいお金でした。虎の子とか隠し財産なんていうのんきなもんじゃありません」
幸次さんが、ちょっと言葉を切った。ことの次第がありありと見えるような気がした。由紀さんは、幸次さんの最後のよりどころだったそのお金に・・・・。
「その金に由紀は手を付けた。一ヶ月ごとに元金が5割増えるなんて、まともなビジネスのはずがない。そんな詐欺まがいの話を信じるなんて、まったくどうかしてますよね。店がいよいよ切羽詰まってきたのを見て、正常な判断能力を失ってたとしか言いようがない。運用益で、何とかして事業を持ち直せるって思い込んでたようです」
押し殺した口調は変わらない。内心の怒りは激しいはずだが。
「その後は、もうお定まりのコースです。案の定、200万円なんてあっという間に吹っ飛んでしまって。たまたま今回はちょっと運が悪かったけど、これこれの追加金を出資すれば、すぐに損を取り戻して大きなリターンが得られるなんて言われて。彼女も、内緒でつぎ込んだ200万をパーにして、もう引くに引けなくなっていたんでしょう」
進退きわまってまともな判断ができなくなったウサギを前に、舌なめずりするキツネ。詐欺関係の事件に関わる度に、いやというほど見聞きしてきたパターンだ。
「もちろん、もうわが家は逆さにしたって鼻血も出ない有り様です。彼女、どこから資金をひねり出したと思います?」
「・・・・ご実家を頼られたとか?」
「とんでもない。彼女の両親は早くに亡くなって、実家は弟一家が引き継いでいます。私は、意地でも由紀の実家に頼る積りはありませんでしたけど、彼女は既に弟からいくばくか援助を受けていたかも知れません。でも、弟だって馬鹿じゃない。まさか姉がマルチにはまってるなんて思いもしなかったでしょうが、当時のうちの状態は知ってましたから、何百万単位のお金を用立てるなんてお金をどぶに捨てるようなもんだと分かってたでしょう」
「それでも、由紀さんは追加金を出資なさったんですよね。一体どうやって?」
幸次さんは、大きなため息をついた。
「借金したんですよ。その愛善会から」
へーえ。
まさにヤミ金の手口じゃないか。愛善会が摘発された時は大きな話題になったが、その詳しい手口までは知らなかった。これはマルチ商法なんて生やさしいもんじゃない。正真正銘の絵に描いたような詐欺集団だったわけだ。
「ま、愛善会が実際にお金を融通して出資金に充ててたのか怪しいもんですが、とにかく借用証だけはしっかりと書かされてました。次から次、何枚もね。でも、一介の主婦の返済能力なんてたかが知れてるから、愛善会は当然連帯保証人を求めます。結局、私は、知らない間に都合1000万円近い借金の連帯保証人になってました。実印と印鑑証明付きの、文句のつけようのない保証契約書でしたね。事務手続き関係は由紀に任せっきりでしたから、その気になれば、実印はもちろん、区役所で印鑑証明を取るぐらい造作もない。まあ、死ぬ間際のけものが、ハゲワシに襲われて骨の髄までしゃぶられたってわけです」
ハゲワシか・・・・。私の脳裏に浮かんだのはアリ地獄だった。誤って砂の穴にすべり落ちて、はい上がろうともがけばもがくほど、ずるずると地獄の底に引きずり込まれていく姿が見えるようだった。
「万事休すでした。彼女の告白を聞いた時、最後の糸が切れるプッツンという音がはっきり聞こえました。いちるの望みが切れた音っていうより、不安定ながらも何とか持ちこたえてた私の神経が切れる音だったのかも。私は、その場に倒れ込んで、それ以来長く寝込むことになります。何をする気力も完全に喪ってしまって、まさに、生けるしかばねそのものでした」
分かる気がした。もともと幸次さんが精神的に不安定だったからというより、こんな目に遭ったら、誰だってそうなってしまうだろう。
「残された道は、自己破産しかなかったんですね」
「私は、もう判断力も指示できる能力もなかったですから、以前お世話になった弁護士さんにお願いして破産手続きを進めてもらうことになりました。私は、まともな意思能力すら疑われる状態でしたけど、言われるまま、色んな書類にサインしました。膜が張ったようなぼんやりした頭で、とうとう破産したんだなってことだけは分かっていました」
「現金預貯金はほとんどゼロで、家も土地もすべて失って、それから皆さんはどうなさったんですか?」
「いくら病気で寝込んでるからって、競売は待ってくれやしません。私は、弁護士さんが手配してくれた埼玉のおんぼろアパートに移されて、由紀と和樹は実家の弟一家を頼るしかありませんでした。大学受験を控えてた和樹の事を考えて、義弟も、とりあえず少しでもましな環境を確保するしかないと思ってくれたんだと思います」
妻子の方は一応再出発のするメドがついたのだとして、幸次さんは、破産状態で、おまけにかなり深刻な精神疾患を抱えている。よくもまあ、自殺を考えなかったもんだ。
「もちろん、自殺も考えました」
私の心の声が聞こえたかのように、幸次さんがつぶやいた。

つづく (^.^)/~~~

file2,愛と憎しみの果て・・・・~その4~

「ふざけるなっ!」

目の前のおじさんが、突然叫んだ。私は、思わず身構える。
「あ、いや、すいません。何も先生に怒ってるわけじゃないんです」
私は、よほどおびえた顔をしていたようだ。おじさんの怒りに燃えた目が、徐々に冷静さを取り戻す。
「実は、昨夜も、ほとんど寝てないもんですから」

おじさんは、今朝の10時、私が事務所のシャッターを上げるのを待っていたように入ってきた。かなりの間、外で待っていたようだった。ゴメンネ、私、かなり朝寝坊なもんだから。
「弁護士の久我今日子です」
「木下幸次といいます」
「初めまして・・・・」
ん? キノシタ?
「昨日、先生からお電話を頂きました」
「あ・・・・。和樹さんのお父さん?  クリックして続きを読む

file2,愛と憎しみの果て・・・・~その3~

~その①~は、こちらから!
~その②~は、こちらから!

その後、父親の幸次さんはさらにふさぎ込むことが多くなり、心療内科で双曲性のうつ病と診断された。マルチ商法で大きな被害を受けたお母さんも、その負い目もあったのか、見るも無残にやつれ果てていた。しかし、八方ふさがりで何の展望もない中、両親は、いたわり合うどころかお互い顔を見ればののしり合うようなとげとげしい毎日。一緒に暮らすことはもはや限界だった。
そして、とうとうお母さんは、高校生になっていた和樹さんを連れて練馬の実家に帰ることになった。和樹さんの受験勉強のことを考えれば、幸次さんも同意せざるを得なかったようだ。
「実家の両親はもう亡くなっていて、母の弟一家が住んでいました。 クリックして続きを読む

file2,愛と憎しみの果て・・・・~その2~

「ぼくが小さかった頃・・・・」

和樹さんは、思い出すようにしばらく考えこんでから言葉を続けた。

「息子の私が言うのも何ですが、父はものすごい子ぼんのうでした。忙しい仕事の合い間をぬって、暇を見つけてはいつも遊んでくれました。そういえば、赤ん坊の頃も、夜中であろうが明け方であろうが、ぼくが泣き出すと起きて抱っこして、泣きやむまでずっと部屋中をぐるぐるぐるぐる歩き回ってくれてたんだそうです。抱っこ歩きって、赤ちゃんにとってゆりかごなんですってね」 クリックして続きを読む

file2,愛と憎しみの果て・・・・~その1~

「ほんとに、もうどうしていいか分からなくて」

その青年は、困り切った顔で深いため息をついた。
「父の恩は、身にしみて分かっています。でも、あの時は、本当にもうどうしようもなくて。ただ、誠心誠意説明して、分かってくれたとばかり思ってました。けど、そうじゃなかったんですね。私が甘かったんです」
青年はバッグから封筒を取り出した。
「おととい、こんな通知が郵送されてきました」
内容証明郵便だった。対立する相手に要求する具体的な内容、そしてその通知を相手が実際に受け取った日時を公的に証明する、一番確実で手っ取り早い方法だ。
青年は封筒の中身を取り出して文面を見せてくれた。

『当方が貴殿に貸付けた以下の金員の返済を求める。
1,平成22年4月から平成28年8月の期間、面会の上手渡した月当たり12万円を積算した合計768万円(12万円×64カ月)。当方がこの金員を貴殿の母上に贈与した事実はなく、従って、これは当然に貸付金である。
2,平成28年6月26日(日)に、恵比寿のホテルウィンダムでとり行った貴殿の結婚式費用として当方が支払った480万円。そもそも、貴殿から結婚式への出席を拒絶された当方が結婚費用を負担する理由はまったくない。従って、これは贈与ではなく当然に貸付金である。
以上の合計1248万円の返済期限は、本書面到達の翌月(11月)末日とする。
もし万一、期限までに返済いただけない場合は、法的手段をとることをあらかじめ通告する。
平成28年10月1日』 クリックして続きを読む

新着情報!What’s New? 新着情報!What’s New? 新着情報!What’s New? 新

2016.1.2

「離婚弁護士・久我今日子」
ついに連載開始。

離婚や別居、親権・養育費・慰謝料・財産分与、あるいは遺産相続・認知といった思いもよらない事態に遭遇した時、果たして人はどんな姿を見せるのか?
現代の家族のさまざまな人間模様に、深ぁく迫りつつ軽妙なタッチで描きます。

2015.6.14

待望久しかった専門家集団「オフィス文殊」のホームページ、本日ついにリニューアルオープンしました。
今後は、皆さまからの法律または経営上のお悩みをどんどんお寄せ下さい。
街角目線で、親身になってご相談にお応えさせて頂きます。

Older posts Newer posts