最近は、中小企業の海外進出に関わる番組がTV放映されることが多いですが、先日、出張先で某放送局の海外向け番組を見ていると以下のような事例が紹介されていました。

東海地区の自動車部品メーカー(仮にA社とします)の事例なんですが、今までトヨタに部品を納入してきたのですが、トヨタが生産拠点をインドネシアに移転することになった。A社では、部品を国内で生産したのでは、トヨタのインドネシア工場に納入できない(円高で価格競争力が低下している)ので、インドネシアへの工場進出を検討中というものです。

そこでA社社長の発言なのですが「原料と機械さえあれば誰でも作れる部品なので、日本で作っててはコストが合わない」、確かそんな内容でした。「現地で製造を始めてもトヨタインドネシアが購入してくれる確証は無い」との話もありました。

その一方で、現地で工場団地を展開している商社の営業マンから「工場団地が進出を希望する企業でドンドン埋まってしまい、これが進出のラストチャンスです」みたいな売込みをかけられ、A社長は、その気になってしまいます。

もうひとつ気になった発言は、「日本では儲からないので、インドネシアで利益をあげて、それを日本に持ってくる」と言うものです。

これを見ていて、とても心配になりました。

まず、「材料と機械さえあれば誰でも作れる」様な部品なら、別にA社が態々、インドネシアに出て行って製造せずとも現地の企業で資金さえあれば、製造可能です。そんなところに現地の知見の無いA社が出て行ってうまくいくとはとても思えません。

もうひとつ心配なのは、「バスに乗り遅れるな!」論です。「他社がやっているから当社もやらねば・・・」と言うことであせってしまい、行き先を確認せずに皆が乗るバスに乗車してしまう (乗った後で行き先が間違っていることが判ってももう遅い)と言うことです。

TV局が番組を纏めるために、そのように単純化しただけかも知れませんが、A社は今までトヨタに部品を納入してきた実績があるのですから「材料と機械があれば誰でも作れる」だけでなく、トヨタが評価するノウハウを持っている筈です。これがA社にとっての「強み」ですから、インドネシアに出て行っても、この「強み」を引続き発揮できるかどうかを検討する必要があると思います。これを十分検討して「勝算あり」と判断してから進出を決めても決して遅くないと思います。周りが「千載一遇のチャンス」と言ってくるケースは多いでしょうが、じっくり慎重に検討することが重要です。

もうひとつは、「現地で稼いで日本に利益を持ってくる」ですが、A社では誰が現地で指揮を取るつもりなのか判りませんでした。まさか、「社員の誰かが現地で稼いでくれる・・・」と言うことでは無いと信じたいのですが・・・。

即ち、現地の責任者人選は成功・失敗の鍵となります。中小企業の場合は、企業のノウハウ(強み)は、社長個人の頭の中に入っていることが多いと思われます。だとすれば、社長が自ら、現地の事業が軌道に乗るまで自身で陣頭指揮を執る以外ありません。

こんな話ばっかりすると、「診断士は経験も無い癖に理屈ばかり多くて・・・」となりがちですが、円高で大変な時期だからこそ、あせることなく、自身の事業の立ち位置をしっかり捉えて方針を決めることが大切ではないでしょうか? (2011年11月)