今回は、東京ビートルズの2大ヒットの一つ“キャントバイミーラブ”を取り上げます。

先ずは歌詞から;

買いたいときは金だしゃ買える。ミンクのコートダイヤも買える。それでも買えない友達だけは~♪

買いたいときは金だしゃ買える。プールの付いた家でも買える。それでも買えない真心だけは~♪

Can’t buy me Love~。

と中々深い内容になっています。

これを2014年版経営コンサルタントバージョンに替えると;

買いたいときは金だしゃ買える。経営権はいつでも買える。それでも買えない社員の心~♪

買いたいときは金だしゃ買える。社長の椅子もいつでも買える。それでも買えない企業の文化~♪

となります。

ここ数年、多くの中小企業にとって経営者の高齢化、後継者問題が表面化してきており、後継者が見つからない場合の対策として企業のM&Aが良く取り上げられ、M&A専門のマッチング企業も登場してきています。また、海外進出においても、今後、現地企業の買収が増えてくるものと想定されます。(既に大手企業の場合は、買収は当たり前になってきていますよね)

買収に当たっては、事前にDue Diligenceによって財務内容を中心に精査し、また、企業の将来の収益額を現在価値に割り戻して、買収額を決定します。確かに企業をモノとして見た場合は、それで良いかもしれませんが、企業を人として考えた場合は(法人ですから“人格”があります)、その価値を数字で図ることは実際不可能です。特に、企業の内部統制やコンプライアンス管理体制および、それに対する社員の意識がどうなっているのかについては、実際に相手先の企業の十分に付き合った上でしか判断することは困難ですし、この様な問題を抱えている企業は如何に財務上の評価が良くても、それを上回るリスクを内包していることになります。

更に、海外の企業について言えば、そもそもコンプライアンスの前提となる法律が、日本とは異なる訳ですし、シンガポールを除くアセアン諸国においては賄賂・汚職などに関する考え方も日本と多少異なることを覚悟しなければなりません。

世界各国の政治腐敗の実態を監視する非政府組織(NGO)「トランスペアレンシー・インターナショナル(Transparency InternationalTI)」が発表した2013年の世界の腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index)によるとアジア諸国のクリーン度の世界ランキングは以下の通りです;

5位:シンガポール、15位:香港、18位:日本、46位:韓国、55位:マレーシア

この辺までは、良しとして、

80位:中国、94位:フィリピン、102位:タイ、114位:インドネシア、116位ベトナム

157位:ミャンマー

と今後の市場として期待されるアセアン諸国は散々です。

この様な国で事業を行う場合の内部統制・コンプライアンス管理をどこまで整備するか(日本と同等に厳しくしてしまうと現地でビジネスが成り立たない可能性あり)は大きな課題と言えます。

 

さて、買収のリスクに関して思い浮かぶのは2000年に米国でフォード製自動車の事故が多発し、数百億円レベルのクレームになった事件で、その原因に関するフォードとタイヤメーカーのファイアストンと争いです。ポイントはファイアストンがブリジストンの子会社(88年に買収)であることで、97年には子会社であるファイアストンが親会社であるブリジストンの売上高を抜く“ドル箱”に成長したため、「ファイアストンについては管理上の問題があった」が「最後までブリヂストン流に変えられない牙城(がじょう)となっていた」との当時のブリジストン社長コメントだったそうです。

その後、ブリジストンがファイアストンの管理の徹底に乗り出したこともあったのか、2005年に両社は和解。結果として、この買収は成功となった様ですが、買収した企業が引き起こした問題によって親会社の経営の屋台骨が揺らぐようでは、金を払ってリスク要因を取り込んだことになり、買収が全くの逆効果になってしまいます。

最近、中小企業のM&Aを仲介するコンサル企業などが出てきていますが、買収する側は、単に相手企業の決算内容やコンサルの提示する数字のみで判断するのではなく、相手企業の風評・企業風土や経営者の人となりを十分理解した上で、買収の決断をする必要があると思います。

 

さて、東京ビートルズですが、この“キャントバイミーラブ”(B面 “ツイストアンドシャウト”)と“抱きしめたい”(B面プリーズプリーズミー)の2枚のシングル盤を発表しています。※

訳詞は、和製ポップスの訳詞の大御所である漣健児氏。東京オリンピック前後に大ヒットしたヴァケーション(弘田三枝子)、可愛いベイビー(中尾ミエ)、ルイジアナママ(飯田久彦)、シェリー(九重祐三子・パラダイスキング)、パイナップルプリンセス(田代みどり)、ボーイハント(伊東ゆかり)、ジェニジェニ(鈴木やすし)等は氏の作品で、当時の少年少女はこれらに曲は日本の曲だと思っていたのではないかと思われます。

この様にアメリカンポップスで圧倒的な存在であった漣氏も、ビートルズに関しては、このキャントバイミーラブの様に、歌詞がちょっと浮いてしまうところがあります。

・抱きしめたい:「オープリーズお前を抱きしめたい、判るこの気持ち~♪」

・ツイストアンドシャウト:「ランチキ騒ぎのダンスパーティだ ♪」

と言う具合です。

これは漣氏だけの問題ではない様で、

・”Rock’n Roll Music” (尾藤イサオ、訳詞 モリマサミ)

「知っているかよロックンロールミュージック♪恋をするならロックンロールミュージック♪」

・”Girl” (ブルーコメッツ、 訳詞 片桐和子)

「女の子はいつでも不思議な気まぐれもの~♪」

・“We can work it out”(スパイダース、訳詞 多分スパイダース自身)

「(サビのところ)人生なんてはかないものさ~♪」、

・“You’ve got to hide your love away”(スパイダース)

「(サビのところ) ヘイ! 恋なんかやめな~♪」

と言った感じで、夫々に御苦労の跡が伺えるのですが、ちょっと苦しいところです。

そんな中で、ビートルズ関係の日本語詞の最高傑作は,やはり漣氏のカーナビ―ツの”Obladi Oblada”の「太郎が花子を見初め~♪」に尽きるのではないでしょうか?※※

この曲は1969年初めにリリースされていますが、丁度GSブームがあっという間に終焉を迎えた時期と重なって英米系の曲の日本語訳はあまり見られなくなり、最後の輝きといった趣です。

尚、漣氏のビートルズ以外のブリテッシュ系の訳詞では、The ZmobiesのI love you、これもカーナビ―ツの「好きさ好きさ好きさ」として大成功を収めています。

 

※ この4曲を収めたCDがMeet the Tokyo Beatlesとして発売されています。手がけたのはは昨年亡くなられた大瀧詠一さん。彼は、他にも橋幸夫の”スイムスイムスイム”のCD化も手がけています。この影響からか収録されている「恋のメキシカンロック」(67年5月)は、かなりメディアの露出度も高いです。橋さんも最近TVで歌っていますね。

この曲を最後に、橋は吉田正のリズム歌謡路線から鈴木邦彦(「そばにいておくれ」、「若者の子守歌」)、すぎやまこういち(「思い出のカテリーナ」、「雨のロマン」)とGS色を強めていきます。特に、すぎやまこういちの2作品は、マドモアゼルブルースとブルーシャトーを足して2で割った様な、北欧を意識した完全なGSスタイルの名曲(作詞は橋本淳)です。夫々のB面である「銀座であった人だから」「虹のレイクタウン」も橋ならではのGS解釈が伺える佳曲ですが、全く知られておらず非常に残念です。

(尚、「思い出の・・」と「雨の・・」の2曲はライブ盤「はじめてのリサイタル」で聞くことが出来ますが、アレンジはGS色が薄くなっています・・)。

 

※※ ローリングストーンズの訳詞はないだろうと思っていたら、“ほりまさゆき”と言うロカビリー系の歌手が、BEAT 65と言うアルバムでTell meを「Tell me すぐに帰っておくれ~♪」と歌っていました。このアルバムは朝日のあたる家を除き日本語カバーなのですが、寺内タケシのギターが冴える中、“王様”ばりの日本語直訳歌詞で結構笑えます。

一方、アニマルズは、Don’t let me be misunderstood(悲しき願い:尾藤イサオ)の「だ~れのせいでもありゃしない!」があまりに有名ですが、スパイダースもWe’ve gotta get out of this place(朝日のない街)を日本語で歌っています。

(2014年3月)