誰よりも君を.jpg今回は、松尾和子と和田弘・マヒナスターズの「誰よりも君を愛す」、吉田正作曲、川内康範作詞、第二回レコード大賞受賞曲(1960年)と言う名曲中の名曲を怖れ多くも取り上げます。

和田弘とマヒナスターズは、57年のデビューとされていますが、60年より新人女性歌手とのデュエットとコーラスを務めて、売り出すと言うビジネスモデルを発掘。その最初のパートナーが松尾和子です。これが大当たりし、その後、吉永小百合(寒い朝:1962)、三沢あけみ(島のブルース:1963)、田代美代子(愛して愛しちゃったのよ 1965)と立て続けに大ヒットを飛ばすと同時に彼女たちをスターに仕立てており、当時の歌謡界のイノベ―ターと言えましょう。

さて、この曲とビジネスとの関係とはなんでしょう。

それは、二番の歌詞“愛した時から 苦しみがはじまる愛された時から 別れが待っている”にあります。

ここ数年、日本の中小企業活性化策の一つとして“海外(特にアジア)の成長機会の取込”が謳われており、昨年の中小企業基盤整備機構によるアンケートの結果では、有効回答数7,171社のうち、59%にあたる4,252社が何らかの形で海外展開を実施している。一方、撤退・移転を経験した企業は634社で8.8%とのことで、約15%の企業が移転を含む撤退を経験していると言う結果となっています。

海外での事業展開にあたり進出国の事情が良く判らないとか、現地の人脈やノウハウの活用の観点から、(また、現地法の規制により)現地企業との合弁形態で会社を設立するケースは非常に多いです。

新規事業をやる訳ですから当然意気投合するのでしょうが、ビジネス土壌の異なる相手との合弁ですから、事業立ち上げの瞬間から、いろんな面でのトラブル、即ち“苦しみがはじまり”いずれ将来には合弁の解消、即ち“別れ”が待っていることになります。

設立当初の目的を果たして、出資者双方の合意の上で円満に合弁が解消されるのなら、問題はないですが、どちらかと言うと、意気投合した時点で、株主間の責任・利益配分、その他細かい事項を含めて十分に煮詰められないまま、事業をスタートして、後にトラブルになることが多いようです。その場合、揉め事の解決は、現地法や習慣に従って行われるのが一般的なので、現地事情に精通した合弁相手の方が有利な立場となってしまいます。合弁事業が赤字になった場合、持ち出しばかりの赤字事業を解消しようと思っても、相手側が同意せず、解消には多額の賠償支払い義務が生じるなど、事業の継続も地獄、撤収も地獄と言う事態になりかねません。

これを避けるためには、新事業で意気投合している時こそ、しっかりと責任分担や事業撤収の条件を取決めておくことがとても重要です。

私は、冗談を交えて“海外進出は浮気と同じ”と説明するのですが、始めた時から“何時・どうなったら止めるか”を合弁相手との間で定めておくことと“その時の費用を引き当てておくこと”はとても大事です。この部分については、中小企業診断士として、しっかりとお手伝いして行きたいと思います。

“誰よりも君を愛す”の歌詞に戻ると、“ああ、それでもなお、命かけて誰よりも君を愛す”であり、そう言ったトラブルを孕む可能性がありながらも、それを上回る魅力のある事業展開を情熱を持って行うことが、企業の重要な生き残り策の一つと言うことでしょう。そのためにもしっかりと脇を固めておきたいものです。

さて、このコラムはGSネタで閉めることとしていますので、作曲者:吉田正、作詞者:川内康範のGSとの関わりについて一言。checheche2.jpg

吉田正は、GSの一世代前である橋幸夫のリズム歌謡の立役者であり、それ以前のニールセダカやポールアンカの曲を日本語で歌っていた時代からの大きな変革者だと言えます。特にアストロノウツは橋の“チェッチェッチェッ”、“恋をするなら”のインストをシングル盤で発表しており、また、彼らの“Surf Party”は“恋をするなら”と、区別がつかないほどそっくりで、両者の関係の深さが伺われます。※

しかし、67年になると橋は、鈴木邦彦、すぎやまこういち等に浮気してしまい“若者の子守歌”“想い出のカテリーナ”“雨のロマン”など、よりGS色の濃い曲を発表します。※※

 

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もう一人の吉田学校の優等生である三田明は、この時代も吉田先生の曲で夕子の涙、初恋こいさん、薔薇の涙※※※、真珠の恋人、ナイトイン六本木と次々とGSに挑戦しますが、いずれもリズム歌謡臭さが抜け切れず、ちょっと時代遅れの感が否めません。

 

 

 

一方、川内康範ですが、彼のペンによるGS曲は、モップスの“月光仮面”とカーナビーツの“愛を探して”の2曲あります。

月光仮面については、かなりのおふざけ曲なのですが、森進一のおふくろさんにあれだけ怒った川内先生が、鈴木ヒロミツ・星勝に対して怒らなかったのは、どんな事情があったのでしょうか?

愛を探して.jpg

もう一つ、カーナビーツの“愛を探して”ですが、センチメンタルな曲でこのグループの強みであるアイ高野の“ベイビーお前が好きさ”的なノリが全くなく(ボーカルは臼井啓吉)、それまで連発していたヒットが、これでずっこけてしまいました。

タイガースが、センチメンタルとノリの良さを交互にヒットさせていたことや※※※※、加橋かつみの花の首飾りの大ヒットに触発されて、この曲をNo.2 ボーカリスト臼井啓吉にソロを取らせたものと思われますが、川内先生の様な大作詞家を擁したにも関わらず、ずっこけたのは、カーナビーツの市場での強味・弱味(SWOT)分析を怠ったレコード会社の失敗と言えましょう。

 

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それにしても、センチメンタルとノリの良さをシングル版の発売ごと、また、A面・B面ごとに繰り返しながら、いずれも大ヒットに繋げていったタイガースとそのスタッフの偉大さには今更ながら脱帽させられます。カーナビ―ツとは所詮役者が違うと言ったところでしょうか。今年は、トッポも含めたオリジナルメンバーで再結成とのことで今から年末が楽しみです。

 

※   サーフパーティ、恋をするならは両方とも64年の夏で同時期に発売されており、どっちがどっちを真似したのか不明。

※ ※  吉永小百合も同じで、67年後半以降、恋の歓び(鈴木邦彦)、坂道のクラブ(すぎやまこういち)、マロンの恋(筒美京平)でGS色を出しており、吉田作品は少なくなる。

※※※ エレキは殆ど登場しないが、タイトル、バラ色の雲そっくりなイントロ、ローザと言う恋人と何があったのか意味不明の歌詞と言うGS的な特徴を備えた、三田のヒット曲では最もGS色の濃い作品。

尚、それ以前より三田の曲には女性の名前が出るのが特徴(ジュリー(恋人ジュリー)、カリブの花(エルビラ)、夕子(夕子の涙)、ジェニー(真珠の恋人))。

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センチメンタル:僕のマリー(A面)、星のプリンス(B)、モナリザの微笑(A)、落ち葉の物語(B)

ノリの良さ:こっちを向いて(B面),シーサイドバウンド(A),真っ赤なジャケット(B),君だけに愛を(A)

タイガースのシングル盤は、ホントに良く考えて作られている様に思える。

(13年2月・画像は各レコードジャケットから引用)