筆者の体調が回復してきたこともあり、立て続けになりますが新作を発表させて頂きます。

今回は、1962年の東宝の怪獣映画「キングコング対ゴジラ」を取り上げます。
例によってあらすじから。
大手製薬会社であるパシフィック製薬は、「世界の驚異シリーズ」と言うテレビ番組のスポンサーであるが、視聴率は低迷している。同社の宣伝部長である多古(有島一郎)は、社長から視聴率向上の厳命を受け、ウケるネタ探しに頭をひねっていたところ、南太平洋のソロモン諸島への出張から帰国した薬学博士の牧岡から同諸島のファロ島に巨大な魔神が目覚めたとの情報を伝えられる。これをネタに視聴率向上を図ろうと考えた多古は、提携TV局の社員である桜井(高島忠夫)と古江(藤木悠)にファロ島に探検隊として出張を要請する。
桜井は妹のふみ子と一緒に暮らしているが、ふみ子には藤田(佐原健二)と言う恋人がいる。佐原は「鋼よりも強く、絹よりもしなやかな糸」の開発者で、この糸の実験の為、航海に出る。
同じころ、北極海の海水の温度上昇の調査のために、現地の海中を潜航中の米国原潜シーホークは、海面に浮かぶ氷山が放射線を発して突如砕けた氷山によって艦が破壊され沈没する。これは、この氷山の中で氷結冬眠中のゴジラが覚醒したことが原因であった。
ゴジラは、日本で氷漬けになり死んだと考えられていたが、冬眠状態で北極に流れ着いたのであった。
生物学者の重沢博士(平田昭彦)は、ゴジラは帰巣本能により日本を目指すと予言する。
ファロ島に到着した桜井と古江は、島民の住む村で巨大なタコに遭遇し村は大混乱となる。そこに突然雷が発生し、それによって目を覚ましたキングコングが出現し、タコを追い払う。巨大な魔神とはキングコングのことであった。キングコングは、島民の準備した赤い液体を飲み干して、眠りこけてしまう。
キングコングを、パシフィック製薬の宣伝の目玉にしようと考えた多古は、桜井と古江に指示し、大きな筏に眠ったキングコングを載せて、船舶で曳航して日本に向かわせる。ところが、途中で海上自衛艦に捕捉され、キングコングには輸入許可がないため輸入させないこと、万一、キングコングが日本国内で起こした行為については、パシフィック製薬が全責任を負うことを言明する。その直後、キングコングが覚醒して筏の上で暴れ始め、船舶が危険な状況になったため、筏を切り離す。
日本に向かったゴジラは松島湾に上陸し南下を始める。一方、キングコングは利根川河口付近に上陸し北上する。日光付近で両者は対決するがゴジラの圧倒的な火炎放射の前にキングコングは引き下がる。
自衛隊(司令官は、おなじみの田崎潤)はゴジラの苦手な電流を流す「100万ボルト作戦」を実行するが失敗。ゴジラは、富士山方面に向かう。
キングコングは、東京に向かい国会議事堂を破壊、電車(丸の内線の車両っぽい)を持ち上げて落下させる。偶々、その車両に乗り合わせていたふみ子は、かろうじてキングコングの手のひらに留まる。今度は、自衛隊はキングコングに砲撃を行うとするが、桜井・藤田によるふみ子の救出要請により、ファロ島でキングコングを眠らせた赤い液を放射し、キングコングが眠った隙にふみ子の救出に成功する。赤い液はパシフィック製薬が商品化のため製造していたものであった
更に、キングコングとゴジラを再び対決させるため、藤田の開発した糸を使ってキングコングを縛り、バルーンで空中に浮かせてヘリでゴジラのいる富士山麓に運搬する。そこで目覚めたキングコングは、ゴジラとの戦いに挑むが、ゴジラの火炎放射の前に再び形勢不利となる。そこに、急に雷鳴がとどろき、帯電したキングコングは力を取り戻し、ゴジラの口に木の根を突っ込んだり、一本背負いで対抗する。両者は熱海城で対峙し城を破壊した後、海中に転落する。ゴジラは浮かんでこなかったが、キングコングは沖合に浮かびファロ島を目指して進んでいく。
これを見ていた多胡は漸くキングコングを自社の宣伝に利用することを諦める。同時に、重沢博士、桜井、藤田は自然の力に敬意を表するのであった。

とまぁ、お決まりの怪獣ものですが、多胡は若大将の父親である久太郎※と同じキャラ(上には頭が上がらず、部下には怒鳴り散らすおっちょこちょいの役)であり、有島一郎の存在がこの映画を単なる怪獣ものに留まらず喜劇にしたてあげています。
その一方でキングコングが、市民生活に甚大な損害を与えても尚且つ、自社の宣伝への利用を諦めない多胡のエコノミックアニマル※※ぶりは、凄ましいものがあります。多胡に限らず多数のサラリーマンのこの姿勢が60~70年代の日本経済の高度成長を支えてきたと考えると若干複雑な気持ちになります。
尚、海上自衛官より指摘を受けた「輸入許可※※※なしにキングコングを日本に持ち込むことは不可」「キングコングの日本での行動についてのすべての責任はパシフィック製薬が負担する」は結局どうなったんでしょうね。キングコングの暴れ振りから見て、とても一介の民間企業が負担できる損失額ではない様に思われますし、重大な規則違反も犯しているので、経営陣の総懺悔は間違いないでしょう。

さて、この映画の突っ込みどころは2点あります。
一つは、視聴率が低迷する「世界驚異シリーズ」について、パシフィック製薬の社長が多胡に対して「視聴者が何を望んでいるかを考えろ」と檄を飛ばす件です。多胡も部下に対して同じ発言をしています。
これはテレビが一般家庭に普及し始めた1962年の発言ですが、2021年においては如何でしょうか?今まで、地上波の民放を見ることは殆どなかったのですが、昨年・今年と入院することになって暇を持て余してテレビを見る機会が増えました。すると、薄っぺらい知識を自慢そうに披露するお笑い芸人や「美味しいっ」「可愛いっ」しかコメントできない女性タレントのワイドショー・バラエティ番組ばかりで辟易してしまいます。若者が情報や娯楽の殆どをネットから得ており、更に老人のITリテラシーが高まれば老人のテレビ依存も減っていき、民放のビジネスモデルは近々破綻することは明らかにも関わらず、相変わらず進化のないゆでガエル状態※※※※の各社の経営陣の頭の中はどうなっているんでしょうか?
(気のせいかも知れませんが、トヨタやソニーの様な日本を代表する企業のTVコマーシャルが少なくなった様に感じます。世の中の動きに応じて、TVコマーシャルに経費を使う企業は減っているのではないかと思えますが・・・・)
テレビ局さんは、先ずは「視聴者が何を望んでいるかを考えろ」に立ち返り、誠実な番組作りに立ち返って貰いたいところです。更に、視聴者(顧客)のニーズを掴んで将来を見据えた新たなビジネスモデルの創造に務めて頂きたいと思います。
二つ目として、この映画では北極海の水位上昇を取り上げていることです。更に、映画は重沢博士の「人間は動植物の自然に適応する生命力に学ぶべきだ」との発言で締めくくっています。
ここ数年、地球温暖化による水位の上昇(南太平洋のキリバスでは2050年には国土が水没すると言われている)が大きな問題となっていますが、大気汚染防止法や環境庁さえ存在しない1962年の時点でこの問題に言及(もちろん、深堀はされていませんが)されていることの先見性に驚きました。
また、人間は自然を支配するのではない/生態系を尊重するとの発想も素晴らしいと思います。
現政権においては2050年までに脱酸素社会の実現が目標とされ、自動車やプラント・機械メーカーの様な大手企業に大きな転機が訪れています。一方、中小企業においては、労働生産性の向上※※※※※を優先するかの様な政策も見受けられます。生産性向上と環境問題への対応を両立は非常に難しい課題ではありますが、日本の中小企業の英知を持って両方を実現して貰いたいものです。また、我々中小企業診断士も微力ながらお手伝いして行きたいと考えます。
さて、今回は先日発表された小室圭氏の大作である28ページの論文に習い脚注を充実してみました。超お暇な方は参考にしてください。

※有島一郎:
若大将シリーズでは、田能久の主人「田沼久太郎」だが、母親の「りき」(若大将のおばあちゃん:飯田蝶子)には頭が上がらず、若大将である「雄一」(加山雄三)には事あるごとにお説教している役回りで、いつもドジばかり踏んでいる。

※※エコノミックアニマル:
経済上の利潤追求のみを目的として活動する人間を軽蔑したもので、高度成長期の日本人に対して60~70年代に欧米人が使用した。時任三郎が歌った「勇気のしるし~リゲインのテーマ」を最後に死語になったと考えられます。

※※※輸入許可:
経済産業省の輸入貿易管理令、鳥獣の保護に関する法律、銃刀取締法、覚せい剤取締法等によって自由な輸入が制限されている物資があり、これを輸入しようとする場合は輸入許可書が必要となります。60年代初頭は、殆どの物資が許可なしで輸入可能な現在と大きく異なり一般的な物資については、50年代の輸入の数量制限から、輸入製品に関税を課すことにより輸入による外貨の流出を抑えようという時代でした。
尤も、キングコングについては現代でも輸入許可が必要かと思われますが・・・・・。

※※※※ ゆでガエル:
カエルを熱湯の中に入れると驚いて飛び出すが、徐々に熱する場合はその温度変化に不感症になり、危機と気づかないうちにゆであがって死んでしまうという話で、緩やかな環境の変化に対応しようとせず、やがて破綻する企業や経営者を指す。

※※※※※ 労働生産性:
付加価値額を労働者数で割った金額で、2018年時点で日本は世界の27位で、イタリアやスペインより低いとされています。この両国は働かない国の代表格の様にみられているので、ちょっとショックな結果です。付加価値額については諸説ありますが、基本的には、「営業利益+人件費+支払利息+減価償却」で算出します。

(2021年4月)