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またまた、長いあらすじとなってしまいましたが、山崎豊子モノはストーリーが長いのに加えて勧善懲悪に則っていろんな人物が出てくるのでどうしても長くなってしまいます。

例えば、産婦人科医である財前又一は、人前でお茶でうがいをしてから飲む様な下品で、金と女と娘婿の教授昇進にしか興味のない最低の人物として描かれています。また、整形外科の野坂教授はどっちつかずの態度で財前、菊川両派から金や地位の恩恵を受けるという人物です。

演じる加藤武のどっちつかずの性格は仁義なき戦いの打本会会長打本昇にも引き継がれていてこの性格が、呉での抗争の原因になりました。第二外科教授の今津は東の選挙参謀ですが、その目的は大人しい菊川が第一外科の教授になれば、自分が外科全体を牛耳ることが出来るという打算にあります。里見と基礎医学の堅物教授である大河内以外の浪速大学医学部の幹部は原則全て私利私欲のみで動く人物との設定になっています。

尚、女性陣ですが、財前の愛人ケイ子を演じるクラブのホステス小川真由美は、当時27歳と女優として絶頂期で大映の看板女優として、この直後に「陸軍中野学校」で田宮と共に大映の二大スターであった市川雷蔵に殺される元恋人を演じています。一方、東の娘で里見を慕う佐枝子を演じる藤村志保は美人ではありますが、あまりの性格の暗さゆえに、嫁の貰い手がないのも止む無しと言うちょっと残念な役回りです。

★さて、50年も前の映画を持ち出したのには理由があります。1ヶ月ほど前まで(当コラムは、2016年7月に執筆)お茶の間とネットを賑わした喜劇の主人公を見て財前を思い出したのです。 

その共通点は、
・地方の貧しい家庭の出身で、人並み外れた努力と才能によって今の地位を築いた。
・自身の才能に対する過信による傲慢不遜な態度。
・相手の権力や地位のみに目が行ってしまい真のステークホルダー(患者や納税者・マスコミ)に対する配慮を欠いた
・問題が発覚した際に、傲慢な性格が災いして誠実な対応を行わなかったため、自ら大きな問題に発展させてしまった。
と言ったところでしょうか? 
尤も、裁判で勝訴し総回診
で多数の部下を従えて院内を大名行列する財前と。まるで里見の様にひっそりと都庁を後にしたマスゾエさんとは正反対の結果になってしまいましたが・・・・。

実は、私が興味を持ったのは財前とマスゾエさんよりも、更に大きな類似点があったからなのです。それは、財前の法廷にたって証言した癌の第一人者船尾とマスゾエさんの御用第三者検討委員佐々木善三氏の対応です。
財前の誤診問題もマスゾエさんの公私混同も違法性と倫理の観点の双方から
評価される事案でした。これに対して、船尾は違法性(財前の医学的な措置の合法・違法)について財前の措置がやむを得ないものであったとしつつも、財前の人間性に対して厳しい糾弾を行いました。
一方、佐々木氏は、マスゾエ氏の一連の行動に対して「一部不適切だが違法性はない」との結論を出しています。双方とも言っている内容は同じにも拘らず、一方は傍聴者を納得させて無罪を勝ち取り、一方は、火に油を注ぎ結果的に依頼人であるマスゾエ氏を辞任に追い込んでしまったという結果はどうして起こったのでしょうか?

先ずは、「場を読む力」の差があったと思われます。船尾自身は国立大学医学部の権威を守るために財前の無罪を勝ち取ることが目的であるにも関わらず、自身の医学的見解を述べた後に、倫理の問題に論点を移して財前を批判ことで、自身の主張の公平性を担保すると同時に、結果的に財前を救っています。
一方、佐々木さんは一部不適切だが違法性はないとの発言に見られるように、法的に問題はなかったと主張することで周囲の目から依頼人であるマスゾエ氏を救おうとしました。ところが、周囲の期待は違法性よりもマスゾエ氏の倫理観の問題であったために轟沈してしまった訳です。
更に、木更津のホテルであったとされる人物赤坂のコーヒー店(10席しかない店に18,000円の領収書を切らせた件)の確認などは無く、ズサンな調査だったとの印象を周囲に与えているどころか、質問したマスコミ担当者を見下したような受け答えを行っており、その意味では傲慢な性格が災いして、真のステークホルダーを見誤っている前やマスゾエさんと同じ種類の人物だとの印象を周囲に与えてしまいました。同じワルでも、医師の倫理観の問題に関する持論を堂々と展開して周囲を納得させる船尾とは役者が違うといったところでしょうか? 

★と言うことで、今回は経営とは全く関係のない論評になってしまいましたが、多少強引に突っ込むと、マスゾエさんは自身の疑惑の調査人として弁護士のみを任命し、会計士や監査人の素養を持った人間を任命しなかったのは釈然としません。監査においては売掛金・買掛金の残高確認や在庫証明の取得など、確認作業を最優先します。したがい、今回の調査を会計士や内部監査人が行ったとすればマスゾエ氏が木更津のホテルで会ったとされる人物の特定、領収書の全ページの再発行や赤坂のコーヒー店の店長へのヒアリングをマスゾエ氏に要求したでしょうし、それが拒否されるなどして不調に終わった場合は、その事実を報告書に記載する筈です。そう言った重要な点に一切言及せずに作成された調査報告書に納得性があるとは到底言えません。 

★尚、3.11の当日にマスゾエさんが上海の空港で購入したシルクの上着が、腕の滑りが 良く書道に適しているから必要経費としたのは合理的という佐々木さんの判断は笑えまし た。せっかくなので、マスゾエさんは議会の面前で、このシルクの上着を着用して、毛筆で 退任届を書くくらいのパフォーマンスで、この喜劇のフィナーレを盛り上げて頂ければも っと良かったのではないかと思います。
また、かつらを着用すれば、相手に好印象をあたえて交渉がうまく行くこととの理屈を通せば、かつらの購入費も政治資金で処理することが可能になると思われますが、マスゾエさんは政治資金でかつらを買わなかったのでしょうか? 韓国の外務大臣のかつらは、政治資金で処理されているかどうか?日韓の政治的民度の優劣を評価するうえで、大いに興味のあるところです。 

いずれにしても50年を経ても、偉い方々が起こす問題には全く変わりがないこと、マスゾエ・佐々木コンビは、白い巨塔の船尾・鵜飼・財前の連係プレイを学習すれば、もう少し上手に立ち回れたのではないか・・・と、歴史に学ぶことの大切さを認識させられた珍事でした。 

 20167月(一部加筆)