軍歌と社会主義と運動会応援歌とのトライアングルというのは、なかなか興味深いとらえ方ですね。
当然です。共産主義革命は独占資本主義=帝国主義体制を転覆するための暴力革命なのですから、新たな体制にはその暴力装置が不可欠になるわけです。ところが、日本の左翼思想は、戦前、共産主義に国家的弾圧を繰り返した帝国主義と、その重要な構成要素であった軍国主義を激しく憎悪しました。そこから日本独自の【左翼=反軍国主義】という概念が生まれたという考え方もあります。
ですから、軍歌と社会主義とのミスマッチ感覚は単なる錯覚に過ぎなくて、実は、両者は根っこのところで実に親和性が高かったのかも知れません。
おっと、ちょっと脱線してしまったようです。
御質問にお答えしましょう。
残念ながら 「日本海軍」の作者は「朝鮮革命軍歌」の作者に、著作権の侵害に対して何らかの手を打つことは不可能です。
北朝鮮の映画を無断でテレビで使用され著作権を侵害されたとして日本テレビとフジテレビが訴えられた事件がありました。去年の12月、最高裁は、一審二審に続き、「国家として承認していない北朝鮮の著作物の保護義務はない」として原告の請求をすべて退けたのです。
実は、北朝鮮は著作権を保護する条約に加盟しており、原告は「加盟国同士だから、日本でも北朝鮮著作物の保護義務がある」と主張していました。条約加盟国間では、「内国民待遇」と言って、相手国の国民と同じ権利が与えられることになります。したがって、北朝鮮の著作物も、日本の著作権法で保護されるという主張も一理あります。
しかし、ご存じのように、日本は北朝鮮を国家として認めていません。未承認国が条約の一員になったからと言って国家として承認したことにはならず、したがって未承認国の国民の権利を認めることは出来ない、というのが裁判所の判断の根拠でした。
となれば、逆に北朝鮮が「日本海軍」を元歌にして「朝鮮革命軍歌」を作ったとしても、日本の著作権者は文句を言えないということになります。北朝鮮側も、日本を国家として認めていないからです。
以上、この最高裁の判断からすれば、ご質問のように、日本の誰かが北朝鮮の曲に勝手に歌詞をつけてCDを出しても違法とはならないでしょう。
ただし、これは、あくまで日本の法律をベースにした考え方に過ぎません。あのお国でも、はたして日本と同じような考え方を取ってくれるのかどうか。
同じ条約の加盟国でも、国交のない国同士では条約の規定は通用しない、つまりそれぞれの国の法律に従う、ということは……。
もし北朝鮮の法律で、著作権を侵害した者は死刑(!)とでも規定されていたらどうなるのか?
あまり想像したくありませんね。いずれにしても、北朝鮮の曲に勝手に歌詞をつけてCDを出すのはやめておいた方が無難でしょう。
もう一つのご質問、小学校の運動会の応援歌として児童たちにおおっぴらに歌わせることが可能かは、ちょっと微妙です。
基本的に教育の現場では許可なく著作物を使えるのですが、今回のように替え唄として内容を変えて使うことまでは認められていません。ただ、元歌とはまったく違う歌詞をオリジナルで作ったのならば、逆に作詞者の権利は及ばなくなります。歌詞とメロディとはそれぞれ独立した別の著作物とされているので、この場合、メロディだけをそのまま使用してオリジナルの詞を付けたと考えれば、自由に上演・演奏できる可能性は高いのではないでしょうか。
ちなみに、替え唄というのは、なかなか難しい問題をはらんでいます。
ちょっと難しく言えば、一つは財産権としての翻案権の侵害、もう一つは人格権としての同一性保持権の侵害の可能性です。
森進一が名曲「おふくろさん」の歌詞をちょっと変えて歌ったことが、作詞した川内康範の逆鱗に触れたことは記憶に新しいでしょう。その後、川内さんは亡くなりましたが、その著作権は死後50年間残ります。つまり、もし歌詞を一部変更して歌いたいなら、50年間は、川内さんの相続人にその許可を得なければならないのです。
同様に、テレビでタレントが替え歌を歌うような場合には、元の詞をベースにするなら作詞家から変更のOKをもらっておかなければなりません。ちなみに、「替え唄メドレー」シリーズで有名な嘉門達夫の場合、作曲家・作詞家・歌手らすべてから許可を取っているとのことです。
(写真はビクターレコードジャケットより引用)
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