「知的資産」って聞いたことがありますか?

「知的財産」は、何となくイメージが湧きますよね。発明やデザイン・ブランド、業務上のノウハウ等のことで、無形であることに特徴があります。また、「知的財産」のうち、特許権・商標権などその権利が保証されているのが「知的財産権」となります。

「知的資産」と「知的財産」は、同一ではありません。「知的資産」は、「知的財産」を含みますが、もっと広くアバウトな概念なのです。

経済産業省によると、
「企業が持っている資産のうち、企業価値を生み出す源泉であり無形のもの」
だそうです。

要するに「何が良くてこの企業は今まで生き残ることが出来たのか、今後も成長が期待できるのか?」を考えた場合、その「良い所」で且つ「無形のもの」のことです。

1. 何故、無形なのか?

一般に企業の価値の源泉は、有形資産 → 無形資産に 中心に変わってきていると言われています。「何が良くて・・」を考えた時、「他社より良い機械を持っている」ことより、「良い取引先を知っている」方が、大きいのではないでしょうか?

これって、人間も一緒ですよね。バブル時代の価値観は、
・ 青山に住んで、ポルシェに乗って(有形資産)
・ 東大を出て、一流企業に勤務して(知的財産)
が、価値の源泉だったのが、今では、そんなことどうでも良くて、一番大事なのは

・その人の性格や人との繋がり (知的資産)
になりました。
いささか強引ではありますが、企業も同じだと考えると判り易いと思います。

2. では、具体的には何でしょうか?

一般的には、

・人的資産:社員のノウハウ、経験、モチベーション等

・構造資産:企業の文化、仕事のプロセス(会社固有の)等

・関係資産:ブランド、顧客満足度、対外関係等
とされていますが、あまり面倒に考えず、「自社の強みは何か?(目に見えない良い所は何か?)」を探してみましょうと言うことで、「仁義なき戦い」風に言えば「わしゃーこれで何10年も飯食っとるんで!判っとろうが、のう!」の「これ」に相当します。
「これ」の内容は、企業にとって様々です。
例えば、商店や飲食店なら、店主の愛想の良さ、とか店員に可愛い女の子がいるとか(人的資産)、店に清潔感があるとか、勘定が早く客を待たせないとか(構造資産)、XX社の仕入れ担当者と懇意にしているとか、長年浮気しない客を掴んでいるとか(関係資産)、そう言ったものが、建前とは別の会社が生き残る真の要因なのかも知れません。

この様な資産は、会社の決算上の資産にならないので、社長自身があまり気に留めないことが多いのではないかと思います。
でも、これが生き残りの真の要因であるとしたら、この要因が逃げて行かないような対策を講じることが必要ですし、加えて、この要因を更に伸ばして、企業の成長を図ることが可能になるかも知れません。

中小企業診断士が診断を行う場合、先ずSWOT分析を行います。S=強み、W=弱み(の内部環境)、O=機会、T=脅威(の外部環境)の分析ですが、この「強み」=知的資産と考えてよさそうです。また、それが、他社との差別化の要因となります。

3. 知的資産の認識

a)  まず必要なのは、企業が持っている知的資産(「強み」)が何であるか、を振返って分析してみることです。忙しい社長サンは、そんなヒマなことを考える習慣がないと思いますが、でも、一度A4一枚に思いつくままにいくつでも書き出してみてください。

b)  次に、その「強み」が、どんな状態にあるか(ほっておいても大丈夫、継続できるか? そうでもないか?)、それを伸ばすことによって企業の成長に繋がるか?
を考えます。

c)   中小企業の場合は、その「強み」が社長個人や特定の社員に帰属している可能性が高いです。社長が引退したり、特定の社員が辞めたらどうなるのか?を考えます。
そうなると、強みを社内で共有化しておくことが必要となります。

4.知的資産の発信先

「強み」の取扱ですが、逃げていくのを防いだり、強化するためには、それを発信・共有化することが必要になります。それによって「強み」が主観的なものから客観的なものに変わります。
発信先は、「強み」の内容と目的によって異なります。

・社内への発信:

「強み」が企業価値の源泉なら、社員間で共有して、会社全体で活かすことになります。特に、事業継承の時期が迫っている場合や、特定の社員だけがその「強み」を持っている場合は、その社員が辞めたら「強み」が無くなるので、非常に重要です。

・取引先への発信:

取引先に「他社と何が違うのか」を積極的にアピールして理解して貰い、より良い取引条件を獲得します。昔「プロポーズ大作戦」と言うTV番組があって、男の子が女の子にプロポーズする時に、司会の西川きよしが、男性に向かって「付き合うとどんな良いことがあるのか」を彼女に対して説明するように求めます。すると男性は、「ゴルフを教えてあげるので、うまくなれる」とか何とか、一生懸命に自分の「強み」をアピールしますが、それと全く同じです。取引先を惹きつけるためには、自分の会社と取引すればどんなメリットがあるかを相手に積極的に伝えることです。

5. 知的資産を業績に結び付ける

知的資産(「強み」)を全社で共有して、業務に活かすには具体的なアクションが必要です。これをKPF(Key Performance Factor)と言います。

例えば、飲食店で清潔感が「強み」だとします。すると、KPFは、例えば、一日に何回トイレを点検・掃除したか? 客がテーブルを離れた後、どれぐらい早く食器を片付けたか等を実践して、その結果を記録します。その結果の改善状況と企業の業績の伸びの相関関係を見て、そのKPIが正しかったかどうかを判断。直接関係が無い様であれば、別のKPIを設定する様にします。

6.「知的資産経営」とは

「知的資産」そのものは、売買できるものでもなく、価値はありません(知的財産は別でしょうが・・・)。それを活かした経営が価値を生むことになります。企業が保有する知的資産を正確に把握し、適切に管理運用して、企業の価値向上に役立てることです。どの企業も人間と同様に「強み」がある筈です。その「強み」を「見える化」して、関係者で共有することによって、企業経営に活かして、他社との差別化を図り、生き残ることが求められています。

中小企業診断士は、この分野のスペシャリストです。建前だけでなく実効性のあるご支援を行っていきたいと考えています。