~その1~は、こちらから!
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~その5~は、こちらから!

「ちなみさん。私、この大石って人が許せなくなってきたんだけど。ねえ、よかったら、この事件、私に任せてくれない? さすがにタダ働きって訳にはいかないけど、弁護士報酬は割り引いてあげるから」
「ええー?」
思わぬ申し出に、子猫ちゃんはちょっと面喰らったようだった。
しばし考え込んでから、子猫がおずおずと口を開く。
「あのお……、いくらぐらいお支払いすればいいんですか?」
私は、頭の中でソロバンを弾いていた。たかがアルバイト娘にあんまり高額だと、さすがにちょっと気がとがめる。いくら個人事務所とはいえ、報酬規程を無視するのはちょっとまずいとは思うけど、今回はちょっと特例、かな。まあ、私の場合、特例はしょっちゅうなんだけどね。それに、この案件のメインは大石夫婦の離婚調停だから、この娘の正当な権利を守るだけならさほどの労力は要らないかも。
ならば。
「着手金、10万円だったら払える?」
キリのいいところで、大石の弁護士の言い値の3分の1ならどうだろう。
「必要経費は別になるけど、殆ど発生しないんじゃないかな。それから、もしうまく行っても成功報酬はなしでいいわ」
ちょっと考え込んだ子猫ちゃん。ちょっと上目遣いで言った。
「分割払いでもいい?」
ったく、しょうがない娘ね。私は、笑いながら頷いた。

例の相続の方は、かなり手間取りそうな雲行きになってた。遺産分割協議の最初の一歩は、亡くなった人物の生まれてから死ぬまでの戸籍をすべて集めること。あのおばさん、相続人は自分と兄の2人だけだと言っていたけど、うかうかと信じるわけにはいかない。
いや、何も彼女が嘘をついてるという意味じゃないの。ひょっとすると、どこかに彼女の知らない相続人がいるかも知れないってこと。その可能性を完全につぶしておくことは、相続業務の基本中の基本なんだよね。苦労して遺産分割協議が調ったとしても、後で、もしも新たな相続人が登場したら、すべてがおじゃんになってしまうんだから。
どこかに相続人が隠れていないか、調べる方法はただ一つ。それは、亡くなった方が生まれてから死ぬまでのすべての戸籍を集めて、その生涯を辿ることなの。そんなことぐらい、亡くなった時点の戸籍にぜえんぶ記録されてそうなもんだけど、そうは問屋が卸さないんだな。
戸籍って、その人の人生すべてが記録されてるわけじゃないんだよね。例えば、過去の結婚とか離婚とか養子縁組とか認知とか、すっごく重要な出来事でも、戸籍を移動しさえすれば新戸籍には引継がれないの。しかもよ。戸籍なんて、その気になれば、いつでも何回でも自由自在に移動できるんだもん。結局、バツイチであろうがバツ2であろうが、隠し子が何人いようが、いったん戸籍を作り直しさえすれば、とりあえず表からは見えなくなっちゃうんだから、ホンット厄介。
ということは、今回亡くなったお父さんにも、ひょっとしたら、最終戸籍には記載されていない認知した隠し子がどこかにいる可能性があるってこと。そして、その隠し子だって、当然相続人の1人。今回の依頼人のおばさんにとっては、自分の異母きょうだいがどこかにいるかも知れないっていう可能性を完全にツブしておかなきゃいけないのよね。
先日亡くなったおばさんの父親は、群馬県のネギとこんにゃくで有名な町で生まれ育って、川崎市で結婚して新居を構えたっていうから、過去の戸籍集めは多分2か所だけで済むんじゃないかな。もしかしたら戸籍を移動していないとも限らないけど、それも、この2カ所の戸籍を照らし合わせれば確認できる。とりあえず、2つの自治体のホームページから申請書をダウンロードして、戸籍謄本の発行を郵送で依頼した。正当な業務に必要であれば、弁護士は誰の戸籍や住民票でも取れちゃうんだよね。

その日の午後、私は、霞が関の家庭裁判所に出掛けた。

つづく(^.^)/~~~