~その1~は、こちらから!
~その2~は、こちらから!
~その3~は、こちらから!

「ちなみさんね。この調査報告を見れば、どう見たって浮気の事実は明らかじゃない。調停委員さんには、何て言ったの?」
「えっとお、一緒にラブホに入ったのは事実ですけど、酔いを醒ますためにソファに座ってお話ししただけですって。弁護士さんに、いざという時にはそう言えって言われてたから」
「調停委員は、信じてくれた?」
「多分」
「ホント?」
子猫の目が泳ぐ。
「いや。……ちょっと疑ってたかな」
子猫が、ぺろっと舌を出した。この娘、どうも世間を甘く見てるフシがあるわね。
「そりゃそうでしょうよ。言っとくけど、もし裁判になったら、2人でラブホに入って何もなかったなんて、絶対通用しないわよ」
「でも、弁護士さんが断固否定すれば大丈夫だからって」
夫の代理人が、一体どういう積りでそんな指示をしているのか、正直言うとちなみちゃんの話だけでは分からない。まともな弁護士なら、これだけの証拠を突きつけられて浮気を否定するなんて、どう考えたって通用しないことぐらい分かりそうなもんだ。
でも、実はまともじゃない弁護士も山ほどいるのよね、特に昨今。これ、内緒の話だけど。まっ、いずれにしても、大石ってヤツが、とんでもなく厚顔無恥で、男の風上にも置けない野郎だという事だけは間違いないみたい。
「ちなみさん。あなた、その弁護士さんの言う事、本当に信じていいと思ってる?」
「だって、大石さんの弁護士さんだもん」
「ちなみさん、よく聞いてね」
いくら世間知らずの娘でも、これだけは言っておかなきゃ。
「あのね、大石さんの弁護士ということは、大石さんの利益を守るのがすべてってことなのよ。つまりね、あなたの利益を守る義理は全然ないわけ。極端に言えば、あなたに損をさせてでも大石さんの利益を守るのが仕事なの」
子猫が、今度は左斜め下方向に視線を落した。
「ふうん、そっかぁ。だから……」
やっと飲み込めた、という顔でこっちを見た。
だから、って? 私は、彼女の次の言葉を待った。
「今日の調停が終わって帰り際に、あなたも専門家に法律相談してみたらどうですか、って調停委員さんに言われたの。ちょっと声ひそめて、でも大石さんとは違う弁護士さんにした方がいいよって」
「そうなんだ。調停委員さんも、多分ちなみさんが大石さんの言いなりになってるんじゃないかって思ったんじゃないかな」
「ふーん」
「今回の場合、1人の弁護士が大石さんとあなたの両方の代理人になるのは、ちょっと微妙かも。一方が得をすると、そのせいでもう一方が損するような2人に、同じ弁護士が就くのはちょっとまずいの」
「大石さんと私って、そういう関係なの?」
「慰謝料っていうのは、大石さんとあなたの2人で支払う責任があるのね。で、一方が全額支払っちゃえば、もう一方は支払う必要がなくなるの。だから、あなたに支払いを全部押し付けちゃえば、大石さんはウハウハじゃない」
「ええー? まっさかあ」
からからと笑った子猫が、すぐに真顔になった。
「ウソでしょ?」
「十分、あり得るわよ。私はそんな例、嫌ってほど見てきたわ。残念だけど、あれだけの証拠があるんだから、もし裁判になったらまず勝ち目はないわね。となると、全額かどうかは別として、ちなみさんにも支払い義務が生まれる可能性は高いよ」
「弁護士さん、シラを切り通せば絶対大丈夫だからって……」
「ちなみさん」
私は、ちょっと声を改めた。
「ちなみさん。いい加減に目を覚ました方がいいわよ」

つづく(^.^)/~~~