~その10~は、こちらから!

「はい。私も、あの調査報告書には目を通させて頂いてますので、事情はおおむね把握している積りです」
「もちろん、ご主人の方とは連絡を取ってらっしゃるんですよね」
武藤弁護士が、それとなく探りを入れてきた。申立人から見れば、相手方二人はいわば敵側の同盟軍。当然、その協力態勢は探っておきたいところだろう。
「初回調停での主張の通り、夫側は、あくまで不貞行為を全面否定する積りでいらっしゃいます。私ども名取の側も、前回の調停の席では、肉体関係を断固否認しました。ただ、率直に申し上げて、あれだけの証拠を前にして、いささか戸惑っているというのが正直なところです」
私の物言いに、武藤弁護士は大きく頷いた。
「そうですか。でも、どうも元橋先生にはなかなか分かって頂けないみたいで。はっきり申し上げて、当方としては、ここまで明白な事実関係で争うのは時間の無駄だと思ってます」
「なるほど。まあ、立場上、その点に関するコメントは差し控えておきますね。ところで、武藤先生」
私は、慎重に切り出した。
「もしよろしければ、代理人のみで一度どこかでお会いできないでしょうか?」
「はい? ええ、まあこちらは構いませんが。あの、元橋先生は?」
「いえ。武藤先生と私だけで。折り入ってご相談したい事があるんですが」
武藤弁護士は、一瞬の間をおいてから、いいですよ、と気さくな声で言った。
妻と夫の浮気相手の代理人同士が、夫側抜きで話し合う。それも、電話で話すのは、いささかはばかられるような内容……。
武藤弁護士が、こちらの意図をとこまで察知したかは分からない。でも、もしも敵側の同盟関係を分断できる可能性があるのなら、話を聞いてみても損はあるまい。まあ、賢明な弁護士だったらそう判断するのが当然だよね。
私たちは、翌週月曜日の午後、裁判所のお隣の弁護士会館で待ち合わせる事にした。
……さあて。それまでに、戦略をしっかりと固めておかなきゃ。

週が明けた。
弁護士会館の面談室で向かい合った武藤弁護士は、白髪頭の恰幅のいいおじさんだった。初めましてのご挨拶と名刺交換の後、私は、検討してきたプランを注意深く切り出した。

つづく(^.^)/~~~