~その8~は、こちらから!

「大石さんが、名取さんに、自分は離婚して独身だと言ってたのはご存知ですか?」
「へーえ。まあ、よくある話ですね。それが何か?」
「ウソをついて肉体関係を結んだというのは、ちょっと悪質じゃないですか?」
「でも、ダマしてお金や物をせしめた訳じゃないから、別に詐欺行為には当たりませんよね。ま、性交渉が財産的利益だってんなら別ですけど」
何てヤな言い草。でもまあ、確かにそれはその通りなのよね。それなりに法的知識はあるから始末が悪い。
「でも、それは刑事事件の話ですよね。民事的には、騙されて身体を奪われて精神的に傷ついた名取さんが、大石憲三氏に慰謝料請求をする余地があるのは、当然お分かりですよね」
電話の向こうの元橋センセが、ぐっと詰まったのが分かった。
「まさか、本気でそんな事考えてらっしゃるんじゃないでしょうね。今どき、セックスの相手が独身であろうが妻帯者であろうが関係ないでしょう。大石が独身だって言ったのは、まあ男女間の言葉のアヤじゃないですか」
おいおい。依頼人の名前が呼び捨てになってるぞ。
「言葉のアヤで済むんなら、詐欺師もヤクザの脅迫も野放しになっちゃうんじゃないですか? 彼女は、大石さんが独身だと信じ込んだからこそ身体を許したんだと仰ってます。となると、大石さんの行為は、いわゆる貞操権の侵害に当たるんじゃないですか」
「テーソーケン?」
あきれた。こやつ、貞操権を知らない? 確かに、今の民法の条文には出てこないけど、裁判の実務では結構使う用語なんだけどな。
「不貞の貞に、みさおの権利と書いて貞操権」
「ミサオ?」
絶句!
いくら若いからって、いくら家事事件に疎いからって、『貞操権』も『みさお』も知らないの? 弁護士として以前に、社会人としてどうなのよ? 法科大学院制度をベースにした新司法試験が始まって以降、弁護士のレベルの低下が叫ばれてきたけど、まさかこれほどとは……。
「元橋先生。あのね、貞操って言うのは純潔の事。そもそも民法770条の離婚事由のしょっぱなに書かれてる『不貞』は、夫婦間の貞操義務違反って事でしょ。いやしくも、家事事件を引き受けるんなら、貞操権とか貞操義務ぐらいは知っておかなきゃ」
「ちっ。はいはい、勉強不足で申し訳ありません」
何たる事! 私はちょっと耳を疑った。電話だから気付かれないとでも思ったか、坊っちゃんセンセの舌打ちがはっきり聞こえた。おまけに、子供じみた居直り口調。ったく、弁護士も地に落ちたもんだわ。知識レベルもさる事ながら、何より品位や人格面で。私は、坊っちゃんコンビと共闘を組む事を完全に放棄した。
「じゃあ、最後に一つだけ確認させて頂きます……

つづく(^.^)/~~~