~その6~は、こちらから!

その日の午後、私は、霞が関の家庭裁判所に出掛けた。こう見えても家事事件が専門だから、家裁は勝手知ったる他人の家ってとこかな。
ちなみちゃんの事件の担当は、藤井亜紀という顔見知りの女性書記官だった。ちなみちゃんからの委任状と代理人選任届を提出して、来月に設定されている次回の調停期日から出席することを伝えた。正式に申立書面や付属資料のコピーを受取って、とり急ぎ申立人の大石由美子さんと相手方大石憲三氏双方の代理人弁護士の名前と所属事務所を確認する。
「ねえねえ亜紀ちゃん。夫側の担当弁護士ってどう?」
書記官ってさ。当事者本人や代理人弁護士との窓口になる立場だから、その態度や人柄とジカに接することになる。横柄で分からず屋の勘違い弁護士に悩まされることもしょっちゅうらしいから、ちょっと探りを入れてみたってわけ。
とはいえ、もちろん裁判所書記官たるもの、こーゆー類いの質問に軽々に答える訳にはいかない。藤井書記官は苦笑いを浮かべて軽く肩をすくめた。ちょっと大変かもよ、お気の毒‥‥。翻訳するとこんなとこかな。
やっぱり‥‥。ちなみちゃんの話を聞いてて頭をよぎった悪い予感が当たったみたい。あーあ、前途多難っぽいなあ。

私は、家裁の玄関ロビーのベンチに腰をおろして、早速スマホで検索してみた。夫・大石憲三氏の弁護士の名前は元橋裕紀。所属は、大量のテレビCMで名を売った新興の大手法律事務所だ。ナルホドネ。この事務所、なりふり構わぬ営業と法律を盾にした強引な交渉でトラブル続出、なぁんて噂がしょっちゅう聞こえてくるんだよね。なんせ狭い業界だから。
さあて、本橋先生だ。弁護士歴の4年の31歳。専門分野は、過払い金返還、借金・債務整理、ネットトラブルほか、となっている。私からすれば、まだ新米の若造って感じだけど、少しばかりキャリアを積んで自信がついてきた頃の弁護士さんの中には、怖いもの知らずでちょっと手が付けられないセンセイがいる。元橋さん、どうかそんなタイプじゃありませんように‥‥。はかない望みを託して、スマホのダイヤルボタンを押した。
ああ、大石さんの浮気相手の代理人さん!
これが本橋センセの第一声だった。
おっとっと。あんたの依頼人は、肉体関係を真っ向から否定してたんじゃないの? 初めての電話の相手に、浮気相手なんて不用意な言葉を平気で使うようじゃあ、弁護士としてのリスク管理はゼロじゃない? 私のはかない望みは、のっけからはねつけられた。
とは言っても、調停では本来同盟を結ぶべき相手方同士だ。ひとまずは協力関係を作っておかなきゃ、今後の戦略の立てようがない。
「申立人提出の浮気の調査報告書、見せて頂きました。それでも、先生としては、あくまで不貞行為を否定されるお積りですか?」
単刀直入に聞いてみた。
「勿論です。ご本人が、確かに一緒にホテルに入ったのは事実だけど、セックスはしていないって仰ってるんですから」
「でも、もし裁判になったら、否定し切れないんじゃないですか。どう考えたって、あの報告書がモノを言って、不貞行為が認定される可能性が高いと思いますが」
「だから、口裏を合わせるんですよ。ホテルに一緒に入ったとしても、口を揃えて性行為はなかったって言えば浮気を認定する訳にはいかんでしょ。2人がヤッてるそのものズバリの写真撮られたんなら別だけど」
あらら、オニイさん、仮にもレディに向って何たる言い草?

つづく(^.^)/~~~