~その1~は、こちらから!
~その2~は、こちらから!

もおっ、ミエミエじゃん。
自分にはしっかり弁護士を就けて、浮気相手は二の次ってこと。これ聞いただけで、この大石って男の品性が知れるってもんだわ。そもそも、ナアンにも知らないアルバイト嬢に手を付けるようなヤツだもんなあ。
「うーん。あなたねえ、ちょっとまずいよ。ヘタしたら、あなた一人で、慰謝料全部かぶることにだってなりかねないんだよ。奥さんの方は、もう離婚するんだから、どっちが払おうが慰謝料むしり取れさえすりゃいいんだし。そもそもね。妻っていうのは大抵、浮気した夫より、夫を誘惑した女の方を恨むもンなんだから」
うん。まあ、これは、これまでの経験からの独断だけど。
「そんなあ、私が誘惑したんじゃないよお。大石さんの方から強引に……」
ふう。語るに落ちたたあ、てめえのこった。ったく、黙秘が聞いてあきれるわ。
「そんなことはどうでもいいの。でも、大石さんとは肉体関係があったのね」
「いえ、ありません」
おっと。結構図太いところがあるわね、この子猫ちゃん。
「あのね、自分を守るためにウソつくのはしょうがないんだけど、自分を守るために私には本当の事を教えてくれないかなあ。弁護士にはねえ。守秘義務って言って、相談者から聞いた話を絶対に外に漏らしちゃいけない厳しーいオキテがあるから安心して。……大石さんと肉体関係はあったんでしょ」
「ありません」
子猫は強情だった。
「分かった。もし身に覚えがないんなら、慰謝料なんか払う理由はさらっさらないわよね。なら、ちなみさんはどんな相談に乗って欲しいの?」
子猫は、右斜め上の方を見上げてちょっと考え込んだ。全部しゃべっちゃっていいのか、それとも浮気相手の弁護士の言葉に従ってあくまでシラを切った方がいいのか。
「実はね」
子猫がポツリと漏らした。どうやら、このままじゃヤバそうだって事だけは分かったみたい。
「今日が1回目の調停だったの。で、今が家庭裁判所からの帰りなんだ」
「何だ、そうだったの。調停、もう始まってるんだ」
「うん。で、今日、調停室でこんな資料を渡されたの」
ちなみちゃんは、お花柄バッグからかなり分厚めの文書を取り出した。表紙を見ると、申立人、つまり妻からの主張書面となっている。代理人弁護士は、四谷門法律事務所・武藤経夫。「四谷門」と言えば、民事・家事関係では、かなり名の知れた法律事務所だ。まあ、相手にとって不足はない。かな?
ざっと目を通してみると、長々と書かれた主張の後に「調査報告書」なるものが添付されていた。
こういった形式の文書は、イヤってほど見てきた。要するに、浮気の調査を依頼された興信所が、尾行や内偵を繰り返した結果報告書だ。
ぱらぱらとめくってみると、沢山の写真が貼付されている。ちなみちゃんらしき女性が30代ぐらいのスーツ姿の男と居酒屋で食事をしている姿、道玄坂辺りだろうか、腰に手を回したスーツ男とくっついて歩いている姿、2人が派手なネオンのホテルへ入って行く姿……。そのそれぞれに、日付と時間と状況を克明に書き込んだキャプションが付いている。
あーあ、これじゃ、とっても言い逃れのしようがないわ。
「こんなもの見せられても、弁護士の指示通りシラを切ったの」
「ええ、まあ」
動かぬ証拠を前にしてシラを切るってのはね。真っ赤なウソをつくってことなのよ。中立の立場の調停委員に向って嘘つき宣言してどうするの。そこんとこ分かってるのかなあ、子猫ちゃん?

つづく(^.^)/~~~